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部屋に入るなりとりあえず俺達は勉強で使い切ってしまった糖分を補給したくて塩豆大福を食べ始めた。
後から橋本が下からコーヒーを煎れて持って来てくれて一息つくと糖分が頭に回り眠気に襲われて俺は上半身をベッドに預けた。
眠たそうにしている俺を見て橋本は横で笑みを浮かべている。
「なんか嬉しい。」
「えぇ?また嬉しい事あったの?」
「ふふ。だって拓が私の前でそうやってリラックスしてくれてるから。この間もそうやってテーブルでさ。」
「ただ寝てるだけなのに?」
「それが良いの。何か特別感ある。私にとっては。」
「ふ~ん。まぁ、橋本がそう思えてるんだったら良いのかな。」
さっきよりも増して笑顔になりうんうんと頷いて見せた。
そんな橋本を今にも閉じてしまいそうな重たい瞼で眺めている俺。
このまま眠ってしまうには惜しい程にその笑う橋本が可愛いくて俺は気持ちのままに直ぐそこに居る橋本を引き寄せ軽く唇を合わせた。
両腕に包み込んだ状態で暫くの間俺は体全部で橋本を感じていた。
顔に掛かる艶のある黒髪からシャンプーの香りがしてあの時の記憶が蘇る。
あの日の俺は頭も体も全てが橋本で一杯になり確かに橋本を欲しいと求めた。
橋本はそんな俺に心を許し華奢な体を開いてくれた。
まるで絹を扱っているような滑らかな肌質をこの手が覚えている。
「拓…ごめん…足痺れた。」
何も話さず抱き締めていると橋本が口を開いた。
「ごめんっ…。」
橋本から体を離す。
「ううん。大丈夫。」
そう言うと痺れた足をゆっくりと伸ばしながら。
「今日時間作ってくれてありがとうね。バイトとかあって忙しいのに。何だか無性に拓の顔が見たくなっちゃって。」
「そんな事気にしなくて良いよ。地元で家だって近いんだし。橋本さえこっちに帰って来てくれれば会えるしさ。」
「そんな風に言ってくれたら毎週帰ってきちゃおっかな私…あ、今日はねその…単に会いたかっただけでネット販売についての会議は無しでも良いかなって思ってるんだ。拓も疲れてるみたいだから無理させられないなと。」
「ごめんっ、うとうとしちゃってたよな。疲れて無い訳じゃ無いけど大丈夫だよ。話し進める?本も買って来たとこだし。」
「いいや。今日はまったりしよう。」
「分かった。」
「良かったら夕飯食べてって。お父さんがカレー大量に作ったみたいで食べて欲しいって言ってた。」
「そうなの?じゃあ遠慮なく頂くね。」
そんなこんなでその日俺達は特別何をするでも無くテレビを見たり橋本の大学の話を聞いたりして普通の恋人の様に過ごした。
外はすっかり暗くなり俺はおじさんのカレーを最後ご馳走になってお店の閉店と同じ位に橋本の家を後にした。
橋本は俺を家の外迄見送ってくれるとの事だったので二人で靴を履き外に出た。
閉店時間にもなると人通りもぐっと減りお店の前は人の姿など見当たらない。
暗く静まり返るそんな夜に俺は周りに目を向けるなんてしなくて躊躇いも無く橋本におやすみのキスをした。
…っあ、本忘れたな。
半分位歩いた所でふと思い出すと俺はクルリと歩いて来た道に体を戻して橋本の家へと向かった。
「やめてよっ、離してっ、、」
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