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何時もそうやって上目遣いで俺を困らせて来たその表情が俺の怒りに触れるのと同時に少しの違和感を覚えていた。
付き合っている頃から度々俺を怒らせて来た亜由美だが今目の前に居る亜由美は何かが違った。
亜由美と別れ話をした際のあの引き際のあまりの良さから一転し何時もの感情丸出しの亜由美に戻っていたからかもしれない。
少なくとも俺はそう思っていた。
怒りの矛先を両手の拳でグッと受け止め鼻から深く息をしてどうにか気持ちを落ち着かせる。
橋本は掴まれた腕をかばいながら俺の背中に周り亜由美をじっと見ている。
後ろにいる橋本に振り返り腕の心配をするとかなり強い力で掴まれたみたいでまだ痛みが引かなそうだった。
痛がる橋本を見てとりあえず理由はどうであれ亜由美がした行為について謝罪させたくて俺は亜由美に謝るように促した。
「亜由美。理由は分からないけどこれは暴力にもなりかねない。橋本にまず一言謝れよ。」
「私は謝らないよ。」
「いや、こんなに痛がってるんだから謝れよ。」
「何おかしな事言ってるの?変だよ拓。」
「変?俺が…?」
やはり何か様子が変だ。
俺を見つめる目もなんて言うかこう…珍しい物でも見ているかの様な目で。
「はは。そうだよ、だってその子が悪いんじゃない。」
橋本が悪い?
何の話だ。
「私が?どうして?貴方と今初めて会ったのに。」
背中越しに橋本が話し掛ける。
「はい?しらばっくれんじゃ無いわよ。」
「しらばっくれてなんか無い。」
「へ~。そう。あっ、分かった。拓の前だからって可愛い子ぶりたいんでしょ?良い子ちゃんで居たいのよね?」
「だからそうじゃ無いって言ってるよね。私は貴方なんか一切知らないしこんな暴力される覚えも無いの。」
「暴力って…そうやって被害者ぶってまた拓の気を惹こうとしてる。懲りないわね。この性悪女っ。」
「なっ、酷いっ、何なの本当に貴方。」
橋本は腕を押さえながらも亜由美の前に出て行きそうになるのを俺は全力で止めに入る。
「あんたがした行為の方が断然暴力に値するんだからねっ。」
亜由美がさっきから口にする言葉が俺は少しも理解出来ないでいた。
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