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橋本が一体亜由美に何をしたと言うんだ。
現に橋本は今初めて亜由美に会ったと言っているし存在自体も知らない訳で。
込み上がる混在した感情をなんとか抑えつつ俺は順を追って話を聞く事にした。
「分かった。一回お互い冷静になろう。まず、亜由美は今日はここに何をしに来たんだ?」
俺なりの精一杯の穏やかな声で亜由美に問いかける。
「何しにって拓しっかりしてよ…それよりこっちに来て拓。危ないからその子から早く離れて。」
亜由美がこっちに来る様に俺の腕を掴む。
けれどその手を優しく解き再度亜由美の目を見ながら言う。
「亜由美。良く聞いて。まず俺は橋本に危ない事なんてされた覚えは無い。橋本は俺の中学の同級生で付き合ってもいる。さっきから話がまるで掴めないけどでもお互い初めて会ったのに橋本が亜由美に何かをしたって言うのは信じ難い話だって俺は思う。だからもしかしたら亜由美は何かの勘違いをしているんじゃないのかな。」
「拓…そんな風に言いくるめられてるんだね。可哀想。うん。でも何時もみたいにマンションの下でその子が近づかない様に私が守ってあげるからもう安心して。無理に抱き締めたりキスさせられたりするその子の束縛から私が解放してあげるからね。」
マンションの下…?
冷やっとして思わず橋本の方を見た。
橋本との帰り道もマンションでの人の気配もまさか全部亜由美が俺の後を付け回していたのか…?
「拓…この人誰なの?さっきから亜由美って。」
「元彼女だよ。」
「元彼女が別れた彼氏の前に現れていきなり私が悪いとか変な妄想話始めて…これってまだ未練たらたらの元彼に新しい彼女が出来てその彼女である私に対して嫌がらせしてるしか考えられない。私が拓の彼女だって分かったのは何処かで私と拓が二人で…え、ちょっと待って。家の前に貴方が居るって事はもしかして…。」
橋本も俺を見る。
「亜由美は多分俺達を少し前から付き回していた。」
「付き回してたなんて酷い。私はその子に拓から離れる様に言おうとタイミングを見てただけ。拓はその子に騙されてるんだよ。私と別れたのだってその子に私と別れる様にそそのかされたから仕方なくなんだよね?」
「亜由美…。」
俺は気付いた。
「拓は私に好きって言ってくれた。私も拓が大好きでその気持ちは誰よりも大きくて。拓に初めて触れられた日も体中の火照りがなかなか収まらなくてそれが幸せで眠れなかった。拓もそうでしょ?私をあんなに優しく抱いてくれたじゃない…ねぇ、拓っ…。」
今夜何故こんな事が起きたのか。
どうして亜由美が肩を震わせ泣かなければならないのか。
全ての原因は俺自身だという事に。
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