episode 7

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「…橋本ごめん。亜由美の変わりに俺が謝る。有りもしない嫌な事言ったり痛い思いさせたりして本当にごめん。」 「拓が謝らないでよ。悪いのはその人なのに。」 「いや謝らせてくれ。良いんだ。俺が悪いんだ。悪かった橋本。」 「ちょっと…そんな風に言わないでよ。拓に謝られたら私…。」 橋本は口をつぐんだ。 「橋本はとりあえず中に入って腕を冷やしてくれる?後から俺もいくから。少し亜由美と二人で話をさせてもらいたいんだ。」 黙ったまま橋本は頷き腕を抱えながら家の中へと入って行った。 泣いている亜由美をそっと抱きかかえながら近くのマンションの敷地にあったベンチに座らせると俺も隣に腰を下ろした。 しゃくり返る程泣きじゃくる亜由美が落ち着く迄何分でも待った。 ズルズルと音がしてポケットからティッシュを出して横から亜由美の手に握らせた。 直ぐに一枚取り出すと亜由美からズルズルズルッとさっきよりも大きな音がして静まるマンションの敷地に鮮明に響き渡った。 「ぷっ。」 「笑ったでっ、しょ…ひっく。」 「ごめんごめん。」 「う、うぅ…。」 「貸して。捨てとく。」 亜由美の手から丸められたティッシュを受け取るとズボンのポケットに詰め込んだ。 ふと視線の先に煌々と光を放つ一台の自動販売機が目に入ると俺はスッと立ち上がり亜由美を待たせて飲み物を買いに向かった。 ホットのカフェオレを二つ買い戻って亜由美の前に差し出す。 鼻にティッシュを当てたままコクリと頭を下げて片手でそれを受け取る。 泣いたせいかさっきの勢いは何処かに行き大分冷静になっているのを感じた。 カチッとお互い栓を開け口に含んだ。 チラリと亜由美を見ると眉毛がクタッと下がり疲れきった顔をしながらボォッとカフェオレの缶を見ている。 俺は亜由美が口を開いてくれる迄待ったがこんな表情を浮かべている今の亜由美からは少しもそんな気配はなさそうだったので俺から話を始める事にした。 「ごめんな亜由美。」 「…っく。」 「俺が冷たくしても亜由美がこんなに俺を想ってくれてたなんてあの時は気付いていてもわざと気付かない振りしてた。亜由美と付き合ってる間もその前からも正直俺は自分の事があまり好きでは無かった。そんな俺が亜由美に好きだと言われて中途半端に付き合った…それがそもそもの始まりだった。俺が亜由美に対して誠実では無かった。」 「…。」 「だけど…だけど色んな出来事があって自分の事はともかく目の前に居る人達の事だけは大切にしなくちゃいけないって思えるようになった。恋人も家族も。本当はもっと早くそれが出来ていたら良かったんだよな。言い訳がましく聞こえるかもしれないけどこれが俺の本音で本心。そして亜由美はちっとも悪くなんか無い。全ては思い通りにいかない事を周りに八つ当たりしていた俺のせいなんだ。亜由美をそんな俺の被害者にしてしまった。」 「え?被害者…?」 「そうだよ。亜由美、俺をしっかり見ろ。」 亜由美の両肩をしっかりと掴み顔を近づけて言う。 「お前に沢山冷たくして沢山泣かせて傷つけた酷くて最低な拓哉だっ。このムカつく面を良く思い出せっ!!」 ───────。
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