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頭がグラグラ揺れる位に俺は亜由美を揺すった。
そして何度も俺は最低な男だと言い続けた。
そう、俺は最低、最悪、冷徹で男のクズだと。
まるでまじないでも唱えているかの様に。
するとふと俺の腕を華奢な手がそっと握る。
「羨ま…しくて、」
ゆっくりと口を開いた亜由美。
「仕方が無くて…。」
「え?」
「羨ましくて仕方が無い顔をしてたのはあの子じゃ無くて私だったんだよね…。」
「あの子…橋本の事か。」
「何か。自分がそういう顔をしてるのを認めたく無くて変な妄想してた。」
亜由美が絞り出した言葉をしっかりと拾い上げる。
そして亜由美の手に握られたカフェオレを一口飲む様に言った。
カフェオレの甘さが喉を通り亜由美の顔が和らいだ気がした。
すると丁寧に話を始めて来た。
「拓が私に別れ話した日、何時も泣いてばかりの私だったから最後位好きな人の前では良い女でせめて居ようって思って背伸びした。けど、そんな無理した所で拓が戻って来てくれるはずも無くて逆に苦しくなった。」
「だからあんなにあっさりと…。」
「大学に行っても勉強がはかどらずに毎日拓の事ばかり考えてしまう日々。本当に朝起きてから眠る迄ずっと…ずっとずっと拓を思って、気が付けば拓を付け回してしまった。だから私もごめんなさい。今拓に怒鳴られて目が覚めた私。」
「謝ら無くて良いから。」
「あ。たまに出る優しい拓だ。はは。」
「あぁ。そうだったかな。」
「拓に振られた時、何時もの私みたいに感情丸出しで拓に泣いてすがりつけば良かったんだきっと。私は拓が大大大好きですってね。そうしたら拓はまた困って別れる事を少し延長してくれたかもしれないのになって…なんてね。」
「はは。」
「拓。私はね。最初から最後迄拓の事が大好きだった。拓が冷たくしてきてもその時は酷いなって思ったりしたけどでも時間が経ってまた拓を見ればやっぱり好きって思うの。だから私の拓に対する想いは本物で今はそれが誇らしくも思える。皆に自慢しちゃう。本当の恋出来たよって。最後はちょっと変な感じになっちゃったけど…ね。」
街灯の下で見た亜由美の顔は泣いて腫れぼったさが残る目をしつつもさっきとはまるで違う強い眼差しを俺は見た。
「あ、そうだ。ティッシュありがとうね。初めて声掛けた時もティッシュくれたよね。」
「確か転んでケガしてたよな。」
「うん。覚えててくれたんだ。」
「あれは衝撃的だったからな。ギャルが教育学部って。」
「え?ケガじゃなくてそっちなの?」
「そっち。あはは。」
「もぉ。でもなんか拓っぽいや。」
話も済んで俺は亜由美を電車では無くてタクシーに乗せて帰らせる事にし車道に立ち走って来たタクシーに亜由美を乗せて財布にあった一万円を握らせた。
「これ今度返すから。あと、あの子にさっきは本当にごめんなさいって伝えて。」
「分かった。それは伝えておくよ。」
別れ際に二人はそう言って俺は亜由美を見送った。
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