episode 7

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感傷に浸っている場合では無い。 俺は涙をグッと引っ込めて俺と亜由美との事を余す所なく全て話した。 最後迄話を遮る事はせずに橋本は俺が話す間黙ってずっとただ側で聞いていてくれた。 そして話が終わると橋本はこう聞いてきた。 「拓は…自分の事余り好きでは無かったんだね。それって離婚した両親が原因なのかなって思ったけど違うよね?」 亜由美の事では無く俺自身の事を。 橋本はもう分かっているのだろうか。 俺はうんと頷くだけの返事をする。 「何かね、何かそうじゃないかなって思ってたんだ。だって親友である美羽から一言も拓のお母さんとかの話聞かなかったしさ。だとしたら美羽だよね?」 「うん。あぁ、でもそれはもう解決済みなんだ俺の中で。だから心配しないで橋本は。」 少しの間があって。 橋本は何か考えている様にも見えた。 「…そっか。うん。分かった。拓と美羽の間に何があったかは知らないけど拓が吹っ切れてるんなら私は普段通りにするね。」 「ありがとう。それから亜由美が橋本にごめんなさいって伝えてって言ってた。」 「分かった。でもギャルは馬鹿力だっていう事が分かったわ…なんてちょっと皮肉だね。あはは。」 「怒って良いんだけどもっと。」 「怒ってたし一発引っ叩いてやろうかとも思ってたんだよさっき迄は。だけど今拓の話聞いたら理由はどうであれ人を好きになる気持ちは同じだからね。亜由美さんはそれが表に濃く出過ぎてしまっただけの話。私そういう風に思うんだ。」 俺は橋本の言葉に救われた。 橋本が亜由美に対して許せない気持ちがあるのならば元凶である俺にその怒りをぶつけて欲しいとお願いするつもりだったから。 亜由美や橋本。 周りの大切な人を結果的に傷つけた最低な俺。 俺の…大切な人…っ。 「拓どうしたの?固まってるけど。」 「はっ、いや、大丈夫。それと病院はいつ行くの?付き添うし治療費も俺が払、、」 「良いからそんな事気にしなくて。この位で病院なんか行きません。ったく大袈裟だよね拓は。」 すると橋本は立ち上がりポットからお湯を注ぎ入れてインスタントコーヒーを運んで来てくれた。 コーヒーをすすっているとおじさんの話になり、昨夜家の中に居たおじさんは丁度お風呂に入っていて全く外の様子に気が付かなかったそう。 橋本のこの腕の怪我も千鳥足の酔っ払いが橋本の方に派手に転んだ際に腕を掴まれたという事に橋本がしてくれていた。 なので亜由美との一件を追求などされずに済んだのだった。
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