episode 8

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episode 8

コーヒーを頂いて橋本に笑顔が戻りようやく何時もの二人の雰囲気になった所で俺は帰る事にした。 「じゃあまた来るから。腕、あんまり無理しないで。」 「大丈夫だってば。拓の方こそあんまり悩んだら駄目だからね。」 そう言って橋本のアパートを後にした俺はスマホを取り出し短い文章で亜由美の容態確認の為のメッセージを送ったのだった。 亜由美も良い子だったんだ。 別れた今になってしまったけれどそんな風に思い傷つけた事をやはり後悔する。 …美羽の事も沢山俺は傷つけたよな。 亜由美や橋本も何故俺を責めない? 私があの時ああしておけばとか自分を責める亜由美にしろ、痛い思いだってしたはずなのに俺の気持ちに結果的に寄り添ってくれたそんな橋本さえも俺を責めなかった。 美羽もそうだ。 あんな風にしてしまった俺を責めては来なかった。 俺をもっと責めて怒ってくれよ。 そうやって俺を何時までも甘やかさないで欲しいのに。 皆の優しさが苦しくてたまらなくなった。 「えっ!?…転勤ですかっ。」 その日私と神谷さんは夜神谷さんの部屋に二人料理を作って食べていた。 「やっぱりびっくりするよね。俺も驚いたよ。しかもこのタイミングかぁって思った。」 神谷さんの口から突然聞かされた転勤話はもうほぼ決定しており行かないと断れば出世コースからは遠のいてしまうとの事だった。 「…そうなんですか。決定なんですか。」 「何かどうにかこうにか行かないで済む方法も考えてはみたんだけど会社にはなかなか上手く逆らえないなって。」 「何年ですか?」 「二年とは言われたけど延びるかもしれない。」 「二年かぁ…けど、それは神谷さんにとって将来のステップになる訳だから私は行って欲しいと思います。」 「ありがとう高井さん…じゃ無かった美羽。」 「私もこっちで仕事頑張ってキャリアを積みます。だから神谷さんも頑張って来て下さい。」 「分かった。頑張って来る。まだ直ぐには行かないけどね。だからその間存分に美羽を堪能しておかないと。」 「た、堪能って。」 「寂しい思いさせちゃうけどごめん。ちょくちょく連絡するよ。あとさ、その呼び方どうにかならない?まさか下の名前覚えてないとか。」 「覚えてますよ…瞬一さん。」 「良かった。忘れられたかと思った。」 「まだ恥ずかしいだけです私が。でもとにかく体には気を付けて頑張って来て下さいね。」 「うん…でももしかしたらしっかりしてる美羽だけど俺の前で寂しいってワンワン泣くんじゃないかなって思ったりしてた。なんかちょっと残念。俺だけ寂しいみたい。」 「子供みたいに泣きませんよ。だけど私必ず会いにいきます。瞬一さんに。」 ニッコリと笑ってまるで最後の笑顔を瞬一さんに焼き付けるかの様にして笑って見せた私だった。 二年…長くなって三年かそれ以上? 私だって寂しいですよ本当は。 早く早く二年が経ちますように…。
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