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瞬一さんのおでこや鼻や頬、口あらゆるパーツが私の肌を下へとなぞっていく。
さっきから体中の熱を集中させた様な波打つ割れ目にたどり着くとそこに留まり私を満たしてくれた。
ボォッとする頭で天井をみていると瞬一さんが私に覆い被さりその汗ばんだ背中に私はゆっくり手を回す。
荒く乱れた息を耳元で感じながら私の名前を囁く。
私を呼ぶその声が我慢していた寂しさを揺さぶり目に涙が溢れて来る。
それを気付かれ無い様にしてそっと目を閉じて二人は果てた。
────────────。
「拓。待たせてごめんね。」
振り向くと少し痩せた亜由美がこちらに向かって歩いて来る。
髪の毛はカールが解かれあの派手な化粧も一切してはいなかった。
「体調はどう?」
「うん。食欲無かったんだけど昨日から食べられる様になって来たよ。」
「そうか。」
俺はそれを聞いて安堵した。
まだ体調が万全ではないせいなのか付き合っている時のテンションとはまるで違い亜由美はとても落ち着いていて話易かった。
俺達は亜由美の家の近くの喫茶店で待ち合わせをしていた。
亜由美を席に座らせ俺はレジに並び亜由美の分のコーヒーを頼み運ぶ。
「ありがとう。」
「少し飲んでから話そう。」
「うん…。」
熱々のコーヒーを一口飲むとポッと頬がピンク色に変わった亜由美。
普段は化粧をしているせいで顔の変化が気付きにくかったので何だかとても新鮮で素の亜由美を見られたと嬉しくなった。
「どうしたの?」
口がニンマリとしている俺に亜由美が不思議そうな顔で見てくると直ぐさま俺は口を開く。
「あっ…、いや。上手いなここのコーヒー。」
「う、うん…。確かに。」
ははっと苦笑いを浮かべる。
すると亜由美がカチャッとコーヒーカップを置いてしっかりとした目で俺を見つめながら。
「私ね。あれから一人沢山考えてたんだ。自分の頭と心のバランスが崩れて来ていたのは決して拓だけのせいじゃ無いなって。」
「え?」
「私ね、大学に進学したのはたまたま推薦してくれるって先生に言われてそれで大した勉強もしないで入ったの。でも特別入りたかった大学でも無かったし少しの思い入れも無い中で毎日何となく通う日々に退屈してた。将来の目標も見つけられ無いまま。」
「…。」
「そんな時拓と出会って空っぽだった私はその空間を埋めてくれる存在にどんどん依存して行ったんだって。結局自分ときちんと向き合っていなかったんだよね。でもね。冷静にじっくり自分に聞いてみた。私はこれからどうしたいかって。そうしたら目線の先にチャックの開けっ放しになった化粧ポーチが見えたの。キラキラしたアイシャドウや口紅を見てたら何だか力が湧いて来るみたいになって…私、美容学校に行きたいって。」
「うん。」
「私。卒業したらもう一度学校に通う。美容の専門学校に。もう決めたんだ。」
決して揺るがない意思を感じそんな亜由美が俺にはとても眩しく映った。
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