episode 8

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「それが…この間拓と実家で会った後にちょっとだけ大変な事があってさ。」 大変な事…? 「拓が帰るから家の前迄出て見送りしてたの。で、拓の姿が見えなくなったから中に入ろうとしたら元彼女の亜由美さんって人が私にいきなり掴みかかって来て。女の人だったけど知らない人だし怖くて何度も振り払おうとしたんだけど離してくれないし、あんたが拓を奪ったとか何とか言われちゃって。」 その光景を思い出しながら話す一花の顔がだんだんと雲っていくのが分かった。 そしてさっきから片方の腕を擦っているのも気になっていた。 「そしたらたまたま拓が家に本を忘れたのを取りに引き返して来て助けてもらえたんだけど…そこからが一悶着あって。結論から言うと亜由美さんは私が拓をそそのかして私に拓を取られたと思い込んでしまった様なんだよね。それも精神的に支障が出てしまう位に。」 「そんな大変な事があったんだ。しょ、正直かなり驚いてる。しかも精神的にって…亜由美さんその後大丈夫だったの?」 恐る恐る聞いてみる。 「拓が亜由美さんの異変に気付いたのか私を先に家の中に入らせて拓と亜由美さんは二人で話しをしたみたい。一応その場はなんとか納めて帰らせたって言ってたけどそれから今も亜由美さんの様子を心配して会いに行ってるんだって。」 「だからあんなに疲れた顔してるんだ拓。」 「大学も休んでるらしいから余計に心配なんじゃないかな…拓優しいから。」 「そうだね。本当は優しいんだよね。」 「そうそう。だけどこの一件で亜由美さんに対して責任を感じ過ぎて拓自身が今度はおかしくなるんじゃないかとか私はそれが気掛かりで仕方が無いんだ。」 「でも思うんだけど何で拓はそこまで亜由美さんに責任を感じるのかな。亜由美さんときちんと別れてから一花と付き合い出した訳だよね?別に一花が拓を取ったとか拓が二股してたとかでも無いんでしょ?亜由美さんが精神的に病んでしまったのは拓のせいって訳では無い気もするけ…ど。」 そう口にした側から私は胸がギュッと締め付けられた。 「…大好き…だったんだね拓の事。きっと別れてからもずっとその想いは消えなかった。精神を病む程拓を想っていた。」 一花は黙って頷く。 「だからこんな事されても亜由美さんを私はそこまで責められ無い。一人の人を想う気持ちは同じだから。」 一花は押さえていた方の袖を捲り私に見せてきた。 すると直ぐに袖を戻して穏やかな表情を浮かべた。 「とまぁこんな事があったって訳で…あっ、美羽お昼休み終わっちゃうから早く食べよう。」 事の一件を聞き私はその日から暫く拓が心配でならなくなった──────。
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