episode 8

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あの一件以来俺はバイトのシフトを減らしてなるべく橋本や亜由美に付き添っていた。 誰も咎めたり怒りをぶつけて来てくれない事が返って俺の中のバランスを崩す。 それを保つ為と二人に申し訳ない思いが全く消えていかずに俺なりに行動を起こしていた。 「…っと、あっ、それは俺が運ぶから。橋本は軽い物だけ荷造りして。」 週末俺は橋本の家で荷造りを手伝っていた。 結局おばさんの腰の具合があまり良くならなくて大学や就活でそこまでは手伝え無いにしても橋本が側に居れば少しは役に立てるとの事で実家に戻る事にしたのだった。 まだ腕も完治していない内に引っ越しだからと言って重い荷物を運ばせる訳にはいかないと今日もバイトを休みにして率先して手伝いに来た。 橋本の指示通り段ボールに本やら食器やらを順番に詰めていく。 少しでも重たい物を持ったり運んだりする橋本を横から止めに入り一切無理などさせなかった。 軽い洋服等をたたみながら段ボールに詰めている橋本を横目で確認すると安堵して俺は出来上がって行く段ボールを積んでいく。 「ん?どうしたの?」 「あぁ…ううん。何でもない…。」 視線を感じ振り向くと橋本はそう言った。 「そうだ。腕どうなったか見ても良い?」 「うん。」 橋本の腕にはまだあざが残っている。 「あ、そうだ。今日湿布貼ってないんだった。」 橋本は湿布を取りに行き自分でぎこちなく貼ろうとするのを見た俺はスッと橋本から湿布を取り上げて貼ってあげた。 「今日は俺が居るんだし何でもやるから遠慮無く頼って。」 「…ありがとう。でもこれ位自分で出来るから大丈夫なのに。」 「橋本はさ、気をつかいすぎだよ。彼氏の前でそんな感じでいたら疲れるよ。」 「本当に毎朝やってる事だったから。それに全く動かせない訳でも無いんだし。」 「はは。真面目だな…あっ、そろそろ一休みするか。コーヒー飲むよね?キッチン借りるよ。」 「う…ん。」 お湯を電気ケトルで沸かしインスタントコーヒーをマグカップに入れお湯を注ぎ入れると香ばしい香りが広がった。 両手にマグカップを持ち橋本に一つ手渡す。 グゥ~。 「やだっ、お腹鳴っちゃった。恥ずかしい。」 「そうだ、何か甘い物でも食べる?」 「いや、大丈夫。まだ荷造りの途中だし。」 「だからだよ。何か腹に入れてからの方がはかどるし。俺買って来る。」 「良いの良いのっ、本当に。」 「遠慮すんなって。」 コーヒーを一口啜っただけの俺は直ぐに立ち上がりコンビニへと買いに急いだ。 橋本の気持ちも知らないままで。 ────────。
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