episode 8

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メッセージを送り暫くすると橋本から内定おめでとうと返信が届いた。 俺は嬉しくて直ぐにありがとうと送り返した。 するとまた橋本からメッセージが届き今週の土曜日に外で会いたいと書かれていた。 この文章を見た瞬間橋本なりに俺への気持ちに整理がつき要約会う決心をしてくれたのだと益々嬉しくなった。 そう勝手に思い込み浮かれた俺は土曜日を心待ちにしていたのであった。 「別れよう───。」 予想もしていない言葉を放つ橋本は冗談なんかじゃ無くて真剣な顔をしてそう口にした。 地元の駅近くの喫茶店は土曜の昼間で少し混雑しザワザワとしている中でも橋本のその声ははっきりと耳に届いて来た。 別れよう。 その理由がどうしても知りたくて橋本に理由を聞いた…けどそれはやはり俺が原因だった。 あの一件から俺が橋本に良いと思ってやっていた行動全てがやはり重荷になっていてそんな俺は橋本が好きになってくれた俺では無くなってしまって行ったと。 俺がそうしていく中で橋本自身の俺への想いに変化が生じた。 橋本に一旦芽生えたその気持ちは払拭する事が出来ずそんな気持ちを抱えたまま付き合うのは自分にとって苦しいだけだと。 俺が橋本と再会したあの頃の自分に戻るからと何度も説得したけれどこれは自分の問題で申し訳ないがどうしても無視は出来ないとの事だった。 橋本自身、俺に対する想いが消えてしまってはいくらこちらが好きでいても一緒には居られない。 「橋本の事。大切にして行きたいと思って付き合った。本当に。でもあんな事があって最初からそう思っていても結局俺の空回りで橋本を困らせた…ごめん。」 俺は橋本に対するありったけの想いを込めて頭を下げた。 「そんな風に思わないでっ。ごめんなんて言わないで。私の勝手な心変わりなんだから。」 橋本は頭を上げる様にと俺の肩を手で擦るようにして言った。 「いや…なんか…橋本にこんな思いさせた俺が情けない。けど二人でネット販売の計画を進めてる時とか凄く楽しかった。」 「私も一緒。拓が色んな角度から客観的に意見出してくれたりしたから良いアイデアが出せた。感謝してる。だからね、私達恋人は解消するけれどまた友達として会ってくれないかな?正直本気で実現させたいんだネット販売。駄目…かな?」 「そんな、こちらこそだよ。そう言ってくれるなんて思って無かった俺。」 「あはは。じゃあ…私達短い間に色々あって今友達同士に戻った訳だけれどこれからもよろしくお願いします。」 そう言って俺達は握手を交わし友達にまた戻った。 橋本と別れた俺は本当の意味で一人になった。    美羽を好きだったあの尖っていた高校生の俺でも神谷さんと張り合っていた俺でも無い。 結局、俺は人を好きになろうとそして大切にしようと自分でそう仕向けていただけだったのかもしれない。 恋愛というのは自分がやろうとするものでは無くて相手を想い自分自身も気付かぬまま無意識に優しくしたり自然に出来るものなんだ。 俺ははき違えていた。 突然心に空虚が出来てきっとこの先それを埋めてくれる存在なんて現れないんだろうと俺は心を閉ざした─────────。
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