episode 8

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「ありがとうございました。またお待ちしています。」 平日の夜の事だった。 何時も通り仕事から直行してケーキ屋さんに居た私。 さっきおじさんから一花が実家に帰って来てくれると知らされてちょっとワクワクしながら働いていた。 一花がこっちへ帰ってくれば定期的に会えるしバイトも楽しくなりそうだったから。 一人暮らしを始めたとしても一花のアパート迄行くよりも実家の方が全然近いのでどちらにせよ都合が良かった。 「今晩は~。やっぱり美羽ケーキ屋似合ってる。」 一花がニヤニヤしながら店内へ入って来た。 「あはは。言い過ぎだよ。一花も勉強お疲れ様。」 明日は大学が休みなので実家に帰って来た一花はそのまま二階に上がり荷物を部屋に置きまた直ぐに階段を下りてきた。 下りて来るなりなんだか余所余所しく私の方 へ近付いて来た。 そしてチラチラと私の顔を見てくる。 「ん?どうしたの?」 丁度その時お客様は居なかった。 一花は裏に居るおじさんの方も確認しながら私に話し出した。 「美羽さ、拓から何か聞いてる?」 「拓?特に何も聞いてないよ。」 「あぁ…そっか。」 「うん。どうかしたの?また拓に何かあったの?」 私が尋ねると一花は重たい口を開いた。 「別れた…の?」 一花から理由を聞けばあの一件事態は自分的にはもう解決済みでそこまで問題では無かった様だった。 けれどその後の一花に対し拓の過ぎる優しさに日々困惑していくばかりでそしていつの間にか拓の事を彼氏として見られなく無ってしまったと聞いた。 「美羽にはきちんと別れた事話しておきたかったんだ。もしかしたら聞く人によっては色んな捉え方をするかもしれない。例えば拓のその優しさは私が好きで大切だからそうするんだよとか…。だけど私はその優しさよりも私が好きになった拓で居て欲しかったの。優しくされればされる程なんかすごく辛くって…私ってわがままなのっ…か…な。」 「…わがままじゃ無いよ。」 一花は最後胸を詰まらせながらポツッと床に涙を落とした。 私はそんな一花を奥に居るおじさんに見えない様にスッと体を移動させて隠してあげた。 床に落ちる雫が収まるまでずっとそうしていた。 自分から切り出し別れてこんな風に泣くなんて。 一花は自分にとても正直な子なんだと思った。 わがまま…か。 私はその言葉が何より羨ましい。 それが出来ていたら今私は拓と…はは。 なんて。 もうそんな風には思わないと決めたんだった。 決めたんだった─────。
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