episode 8

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頬に当てていた手を掴んで自分の方へ引き寄せると瞬時に唇を奪われた。 顔が寄るとアルコールの匂いがしたけれど瞬一さんからなのか私からの匂いなのか区別が出来ない程に二人は抱き合い舌を重ね合う。 一枚脱がせてはまた唇を重ねまた一枚脱がせては重ねて…。 そして後ろにあるベッドに雪崩れ込んだ。 酔いが回った私達の肌は何時もよりも熱く火照りを増し触れ合う肌と肌の間がじわりと汗ばんでいた。 首筋に瞬一さんの吐息がふわりとかかる。 その時ふと拓にも触れられた記憶が蘇った。 あの夜は直ぐそこにお父さんもいる距離で拓は私を求めて来た。 今よりももっと、もっと心臓がドキドキして息をするのもままならない位に。 拓に触れられた箇所はたちまち喜びを得て言葉にならない声が頭の中を駆け巡りそしてその後も私の体は熱く熱を持ちなかなか引いてはいかなかった。 拓のその行為が何とも心地良くてあの時私は心の隅でまた拓を密かにずっと求めていたんだ…。   閉じていた目をそっと開けていくと私が居るのは拓では無く瞬一さんの腕の中である事に気付かされる。 瞬一さんは当たり前かの様に私の柔らかな胸やお腹に唇を落としていく。 その口付けは何時ものように優しくて大事に扱われているのを実感する。 瞬一さんの触れてくる全てを感じながら再び目を閉じると暗い瞼の裏にこちらを見つめる拓が現れた。 その顔は今にも涙が溢れ出してしまいそうなそんな表情で私は変な胸騒ぎがした。 「…っく。」 私は思わず瞼の裏に居る拓に声を掛けてしまった。 「ん?痛かった?」 「あ…何でもない…よ。」 声を掛けて呼び止めないと二度と拓に会えないそんな気がして。 下に集中する熱い場所に瞬一さんの指が入ると私から拓の顔が消えてしまった。 「待って…、」 私のその声と共に瞬一さんの指も止まった。 「ごめんっ、…美羽?」 はっとして慌てて口を塞ぐと耳の辺りがヒヤリと冷たくて。 「どうしたの?」 優しく話し掛ける瞬一さんの手が私の涙を拭っていた。 「分からない…。」 「大丈夫。大丈夫だから…。」 私が流した涙の理由を聞こうとはせずその夜はもう何もせずに朝日が昇る迄ずっと私を抱き締めてくれていた。
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