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──────。
ふと見るともうアイスなんだかシロップなんだか分からない混ざり合った液体が器から滴り落ちてテーブルの上に小さな水溜まりを作っていた。
後どれ位亜由美とこうしていなければならないのだろう。
十八時には帰ると伝えてあるんだったよな。
スマホの時計は十七時になろうとしている。
もう駅に向かわないと間に合わない。
俺は下から覗う様にしてゆっくりと視線を上げていく。
すると亜由美は溶けたアイスをスプーンでグチャグチャかき回しながらジッと俺を見つめていた。
俺への不満がある事は重々承知だが今は一刻も早く駅に向かいたい。
まだ温かいコーヒーをなんとか飲み干してズボンのポケットから財布を取り出し伝票を手にした。
「ごめん。そろそろ出ないと。」
「バイトなの?」
「いや…夕飯だから。」
「え?それが理由?意味分かんない。」
「分からなくて良いよ。あ、今日は俺が払うから。」
「私も拓と…拓のお家で一緒にご飯食べる。」
「はあ?いやいや…無理だから。」
「グスン…う、うぅ~。」
こうなってしまうとお手上げ状態だった。
前にも喧嘩をして亜由美が一方的に誤解をしてこうなってしまった事があった。
男にとって目の前で泣かれてしまうのは困るしそしてやはり…面倒くさい。
特に亜由美は一度泣き始めると…長い。
チラチラと時間を気にしていた俺はとにかく駅に向かいたかった。
今回亜由美が泣いた原因は付き合っている俺の責任でもある訳で。
だから勢いだけでとりあえず、とりあえずだけれど。
「ほら、亜由美立って。一緒に家帰るぞ。」
「えっ…?家?」
亜由美の声は聞こえていたけれどあえて返事をせず俺は会計を済ませに行く。
俺の大切な…自分よりも大切な人が居る場所に亜由美を近づけたくなんかないと怒りにも似た複雑な感情が胸を支配していた。
亜由美にはあんな事言ってしまったが少しも家に上げる気なんて無かった。
だから帰りの道中で何か策をと。
「拓、御手洗い行ってくるからちょっと待ってて。」
「あぁ。」
策…策を。
─────。
…何も思いつかない。
とりあえず万が一亜由美を上手く帰せなくて家に来る羽目になってしまった場合の事を想定して俺は美羽が驚かない様に連絡を入れる事にした。
「…もしもし。美羽?」
「うん。拓今何処?大学?」
「あのさ、その、事情があって友達が一人今から家に来るかもしれないんだ。それだけ頭いれといて。」
「そうなの?お友達はご飯食べて行く?ご飯あるよ。お友達の分も。」
「いや、気にしないで。美羽は何もしなくて良いから。お茶とかも部屋に持って来なくて良いから。じゃな。」
美羽の返事を待たずに俺から電話を切った。
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