episode 8

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歩くのを止めた私は道路に面したビルの駐車場が目に入りすがるようにそこに身を潜めた。 はぁ、はぁ、はぁ。 駐車場の壁に体を預け崩れる様にしゃがみ込んだ。 胸が強く締め付けられ苦しくて冷や汗と涙がこぼれ落ちる。 幾ら涙を止めようとしても不思議な位止まらない。   呼吸も深く吸い込め無くてでもお腹に力をなんとか入れて酸素を取り込む。 鞄の中にあるペットボトルを取り出し振るえる手を使って蓋を開け口に含ませていく。 ゴクリと音がして冷たい水がスウッと胸を通過すると胸の締め付けは弱まり息も整って涙も少し収まった。 道行く人々が前を通り過ぎる度チラチラと私を見て来る。 気まずい雰囲気を感じつつ、でもまだ足に力は入らなそうだった。 とりあえずこの手の震えと足がしっかりする迄はここに居させて貰おう。 前を歩く瞬一さんに助けてと声を掛けたかった。 だけど…そうはしなかった。 私は後ろめたさが拭いきれないで居たのだ。 チラリ腕時計を確認すると今立ち上がって歩き出さないと始業時間に間に合わないと気付きスマホを取り出して会社に連絡を入れた。 「はい。ライトベール化粧品です。」 「あ、おはようございます。高井です…田村さんですか?」 「高井さんか、え?どうかした?」 「あの実は途中で体調悪くなってしまって少し遅刻します。すみません。亀谷部長に伝えておいて貰っても良いでしょうか…。」 「それは良いけど高井さん大丈夫?今何処なの?俺迎えに行こうか。」 「大丈夫です。座れる所見つけて休んでるので。ありがとうございます。」 「そう…分かった。じゃあ部長に伝えるね。気を付けてね。ゆっくりで良いからね。」 「はい。」 そう田村さんに伝言を頼んで電話を切った。 瞬一さんにも連絡をしようかと思ったけれど流れで田村さんから耳にするだろうと予想してあえて連絡は入れなかった。 しかもきっとまだ会社に向かって歩いている途中で連絡を入れてもそれに気が付かず結果私は会社に電話する事になったのだろうと。 私は瞬一さんに自ら見えない壁を作り出してしまっていた。
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