episode 8

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ビルの駐車場でうずくまりハンカチで冷や汗を拭いながらかれこれ一時間近く経つ。 血の気の引いた体は激しい悪寒に襲われて今日はこんな体調では会社に行っても仕事にならないと諦めて家にそのまま帰る事に決めた。     会社に再び電話を入れ休むと伝えた後、力の入らない足で壁を頼ってなんとか立ち上がりふらつく足取りで駅に向かった。 転ばない様にと慎重に歩いているとスマホが振動しているのを鞄越しに感じた。 けれどその着信に今は出られる余裕は無く早く、早く家に帰りベッドに身を委ねたかった。   ん? その日は午前中だけ大学に行く用がありそれを済ませ家に帰るとその時間に有るはずの無い美羽の靴が乱暴に脱がれていた。 今日は平日で仕事に行っているはずだ。 不思議に思った俺は部屋に鞄を置いてリビングへ向かった。 すると美羽がテーブルで片腕を床にダランとさせ険しい表情を作りながら肩で息をしているのが目に入ってきた。 テーブルには薬の箱が開けられていてミネラルウォーターのペットボトルが置かれている。 美羽に直ぐさま近付く。 額からは汗が流れ口は声にならない何かを呟いているのが分かる。 考える暇も無く俺は気持ちのままに美羽を抱き上げ部屋へと運ぶ。 え…嘘だろ。 腕から感じる美羽の体温が驚く程熱くて美羽を見ながら一瞬固まってしまった。 ベッドにそっと寝かせるとさっきから目をつぶったままの美羽に話し掛ける。 「美羽、美羽っ。」 「…。」 もう一度。 「美羽っ、俺だよっ、拓!」 「…っく。」 微かに俺の名を呼ぶ美羽の声が聞こえた。 けれど一向に目は閉じたままで。 「うぅ…はぁ…はぁ…、、」 眉間を寄せかなり辛そうな美羽に冷却シートと冷えたミネラルウォーター、それから体温計をとリビングへ行く。 普段あまり熱など出さないので体温計も冷却シートも、しまい場所が分からない。 とりあえず目につくありとあらゆる引き出しを勢い良く開けて行く。 無い…。 テレビの横にある四段の木製の引き出しは確かDVDやゲーム機が入っているからそこにはあるはずは無い…ん? ふと一番下の他の三段よりも深めの引き出しが気になった。 ここは開けたこと無いな…ここかっ。 期待を込めて引き出すとクリアボックスに入れられた沢山の薬が見えた。 クリアボックスごと取り出して蓋を開くと中に体温計と冷却シートが入っておりそれをガサッと握りしめそのまま冷蔵庫に向かいミネラルウォーターも手にし美羽の部屋に戻った。
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