episode 8

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コトッ…。 「熱いから火傷しない様に食べて。」 「ん~。美味しそう。食欲湧いてきたかも。頂きます。」 レンゲですくって顔の前でふぅっと息を吹きかける口が可愛らしくて見とれてしまった。 元々優しい顔立ちだけど熱を出してポワンとしている美羽はまるで小さな女の子だった。 「ハフッ、うん、美味しい。鼻も通るから味が鼻から抜けて良く分かるよ。凄いね拓。」 「お粥ってとりあえず火にかけておけば出来上がるんだな。また作るかな…なんて。」 「あれ?もしかして料理に目覚めた拓。そうだとしたら私が出て行った後は拓が料理担当だね。」 「いや…それはまだ荷が重い。当分はほぼ外食でたまに父さんか俺の手料理かな。」 「ふふ。まぁでも料理は楽しみながらやらないと続かないから気が向いた時にやるのが最初の内は良いのかもね。」 「だな。外食ばかりでも飽きるしたまに俺がやる感じにする。」 「何か拓容量良いしきっと私よりも料理上手になるよ。」 「はは、それはどうかな。」 そんな他愛ない会話を楽しみながら器の卵粥を全て平らげてくれた美羽。 「ご馳走様でした。トロッとしてるから食べ易くてもう食べ終わっちゃった。それに本当に美味しかった。」 「良かった。あ、薬も飲んで美羽。」 「うん。」 ミネラルウォーターと薬を美羽の前に差し出す。 「ありがとう…拓は体調は大丈夫なの?」 美羽が俺を覗う様にして話し掛ける。 「俺は…まぁまぁ…かな。美羽は仕事忙しくて大変だなって思うよ。こんな熱出す位だし。社会人はストレスもかなりありそうだしな。」 「会社は回りも良い人ばかりで恵まれているし仕事もそんな大変な事は無いんだけど…ね。」 下からチラリと顔を見てきた美羽に俺は違和感を覚える。 「…神谷さんと何かあったら話聞くけど。同性同士分かる部分もあると思うし。」 「あっ、ううん。違うの。これは私の中の問題で…あぁ、良いの良いのっ。」 話をはぐらかす様にして美羽は薬に手を付け始めた。 「薬も飲んだしまた横になるね。少し疲れてきた。」 「分かった。捕まって美羽。」 椅子から立ち上がろうとする美羽の腕を持ち美羽の手がもう片方の腕を掴んだ。 「ありがとう。」 そして腕を持ったまま横並びになり美羽の部屋へ行きベッドに寝かせた。
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