episode 8

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両手に持ったビニール袋を下に置いて静かに玄関の扉を開けていく。 足で扉を押さえながら再びビニール袋を持ち中に入れる。 靴を脱いで足音を立てない様にすり足で廊下を歩いていると美羽の部屋から声が聞こえた。 「っく…。」 俺の名前をまた。 「行か…ない…で、拓…。」 待ってとか、行かないでとか。 一体俺のどんな夢を見てるんだ。 幾ら弱ってるからってそんな悲しそうな声を出して俺を呼んだら抱き締めたくなるだろ。 「…ぐすっ…ん、拓…拓…。」 扉越しに美羽のすすり泣く声を聞いた瞬間俺は荷物を床に放って美羽の部屋へ入った。 ベッドで譫言を呟き涙を流す美羽の顔を頭からすくい上げる様にして包み込む。 「美羽…。」 するとゆっくりと瞼を開いた。 「俺は何時も美羽の近くに居るだろ。家族なんだから。だから安心して…ね。」 子供を諭すような口調で優しく美羽に話す。 「私の…本当の…気持ち。」 「本当の気持ち?」 「胸の中の…ずっと奥の気持ち。」 「うん。」 「私は家族が大事…拓も大切。」 「知ってる。」 「拓…痩せたね。」 美羽が右手を布団から出して俺の頬に触れた。 はっとして…だけど動けなくて。 美羽は続ける。 「拓は悪く無いよ…何にも悪くなんかない。もっと自分を許してあげて。」 「え…。」 「拓は私の大切な存在…だから心配なの。大切だから…拓の事ばかりで私…私…。」 また涙が流れそうな美羽を俺はしっかりと抱き締めた───────。
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