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美羽との電話が終わると亜由美が御手洗いから帰って来て俺の顔を見上げる。
「ねぇ。目…腫れてるけど良い?家族の人に変に思われないかな…。」
亜由美の言葉に虫唾が走る。
家族の人に?会うと?
こっちはお前のご機嫌取りで仕方なくそう言うしか無かったって言うのに何をすっかりその気になっているんだ。
俺は亜由美が家族と口にした事がどうしてもすんなり流せなかった。
今の亜由美の一言で何が何でも家には上がらせないと強く思った。
そして我がままな亜由美に対する感情が思わず口から出てしまいそうになるのをグッと堪えながら店を後にした。
亜由美の存在などそこまで気に掛ける事無くスタスタと早足で駅へと歩をひたすら進めて行く。
もう本音を言えば今日は顔も見たくない程だった。
さっきの泣いたあのタイミングで「別れて欲しい。」そう一言言ってしまえば良かったんだ。
泣いているあの時に言ってもどうせ別れ話をした際に亜由美はきっと泣くのだから同じ事だと。
「ねぇ拓、拓~。ちょっと待ってよ。早いってば。」
勘に触る甘ったるい声で後ろを歩く亜由美が何か言っている。
振り向こうともしない俺に亜由美は更に大きな声で呼び止める。
「拓っ!待ってよっ!私ヒールなのっ!」
俺は歩く速度を緩めた。
すると亜由美の足音が近づいてきてガシッと腕を掴まれた。
「はぁ…はぁ…。早く歩けないんだから腕位組んでくれたって良いじゃない。彼氏なんだから…はぁ。」
「…。」
俺は亜由美に合わせるようにして歩き出した。
暫く歩いて小さく駅が見えてほっとする。
「痛っ。いたた…。」
すると亜由美がかかとを気にしていた。
見てみると皮が剥け少し出血もしていてかなり痛そうだった。
俺は鞄から持っていた絆創膏を取り出すとそっと傷口に押さえるようにして貼っていく。
「亜由美。靴履いてみ。」
「うん…いっ、痛。」
「今日はこのまま帰った方が良い。」
「どうして?」
「俺の家、駅から割と距離あって歩くから。この足じゃ無理だろ。」
「だ、大丈夫だってば。タクシー使えば済む話だし、ね。」
「タクシー…あまり来ないんだあの駅。バスも。だから。」
「ヤダ、何で?何でそうなの?元はと言えば拓があんなに早く歩くからいけないんでしょっ!普通に腕組んで歩いてくれてたらこうはならなかったぁ…もぉ…うぅ。」
亜由美はまた泣き出してしまった。
けれど。
人の流れも多くこんな駅の改札前でとは思ったが先程考えていたあの言葉をいよいよ言う時なのではないかと思い俯いて泣いている亜由美に向かって俺は口を開いた丁度その時。
!?
亜由美のスマホが鳴った。
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