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「薬膳鍋?」
朝早くから私が休んでいた分の仕事を熟すつもりで出勤したけれど思ったよりも仕事は溜まっておらず残業には至らなかった為私と瞬一さんは終業時間に仕事を終え私を薬膳鍋のお店へと連れて行ってくれた。
前に薬膳鍋ブームが来ていた時に瞬一さんがはまったみたいだった。
当時薬膳鍋を毎週食べに通っていたら代謝が良くなったせいで体が温まり風邪をひかなくなったそう。
薬膳と聞いただけで少し食べ辛い味なのかと想像しがちだけど驚く程に美味しくてそこがまた気に入っているとの事だった。
「美羽初めて食べるの?」
「うん。薬膳鍋か…確かに食べたら風邪も治っちゃいそうなイメージ。」
「体にも良くて味も美味くてなんて最高だよな。」
店内は漢方薬局に近い香りがしてもう座って息をしているだけで体が健康になりそうだった。
瞬一さんがメニューを見ながら頼んでくれた薬膳鍋は私が普段家族で囲んで食べる鍋とは少し違っていた。
それはスープが二色の鍋だった。
「赤と白に分かれてる。綺麗。」
「そうそう、見た目も何か目を引くよね。」
「これどうやって食べたら正解なの?」
「一応赤いスープは牛肉や豚肉で食べて、白いスープには鶏肉や魚であっさりと食べる感じかな。まぁ、好き好きだからどっちに付けても美味しくはなるよ。」
「そうなんだ。じゃあ言われた通りそうしてみようかな最初だし。」
私はまず豚肉を赤いスープに浸した。
野菜も入れて暫く待つ。
その珍しく映る薬膳鍋に見とれていると瞬一さんが口を開いた。
「美羽が会社休んだ日俺電話したんだ。」
「そうだ、拓から聞いたんだった。出られなくてごめんなさい。」
「体調悪かったんだし仕方が無い。けど弟君がその時家に居てくれて助かったね。着替えとかしてくれたんだってね…。」
「あぁ、うん、そうなの。私40℃位出して朦朧としててそれで拓が見かねてやってくれたみたいで…。」
「…優しいね。」
ふと瞬一さんの表情が曇った。
「う…ん。拓は本当は昔から凄く優しくて。」
「お姉さん思いだもんな彼は…。」
すると私の取り皿に火の通った豚肉や野菜を入れてくれた。
だけど表情はまだ曇ったままで。
「食べて。熱いよ。」
瞬一さんに促され口に運ぶと少しの辛みと旨みが私の口いっぱいに広がり鼻から薬膳鍋独特の香りが抜けていくのが最高だった。
「美味しい。想像以上だな。」
「良かった。」
瞬一さんは白いスープにもどんどん具材を入れていくとまた拓の事を話し出した。
「その…電話に出た弟君がさ俺の事を親の敵みたいな口調で話してきてさ。まぁお姉さん思いの弟君だけに男の影があったらそうなるよな。前からそんな感じだしな。」
「そうだったんですか…すみません。」
「あぁいや。だけどちゃんと今は弟君彼女居るんだよね?」
「居ま…した。この間迄は。」
私がそう話すと瞬一さんの持つ菜箸が止まった。
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