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瞬一さんの指の動きが止まりスルリと下着が脱がされた。
目も口もギュッと閉じ痛みしか感じてこない体を必死で保ち何処か怖さが見え隠れする瞬一さんにも上手く応えられずにいる私の顔が酷く哀れに思えたのか。
瞬一さんは私の顔を上から覗き込みじっと見つめたかと思うと私から体を離し乱れた私の身なりを整え始めた。
「…。」
「帰った方が良いな今日はもう…病み上がりだし。」
そう言った。
「え…う、うん。そうだね。」
でも私は内心ホッとしていた。
服を直していると瞬一さんに掴まれる様に触られた胸がズキンと痛んだ。
「っ。」
胸に手を添えるとそれを見た瞬一さんがごめんと一言言った。
私は黙って首を振ると瞬一さんは冷蔵庫の前に行きまるで酔いを覚ます様に2リットルのミネラルウォーターをがぶ飲みした。
私はそんな瞬一さんを見ていられずに視線を戻した。
あんなにお酒を煽り私の体を乱暴に扱う瞬一さんにしてしまったのはきっと私のせいだ。
拓との仲を瞬一さんは快く思ってはいない。
私が家族だと一括りに言ってはいても血の繋がらない弟の拓を一人の男として捉えだしている瞬一さん。
私は早々に支度をして溶けてしまったバニラアイスを片付ける為シンクに行く。
「ごめんなさい。私の配慮が足らなくて。」
流れる白い筋を見つめながら一言そう言った。
「美羽の配慮がどうとかじゃ無いけど。」
「あっ、う…ん。」
バタン。
「俺も平気な振りするのはまぁまぁ堪えるんだよ…。」
冷蔵庫を閉めながら私の背中で聞こえた瞬一さんの声は自信など無く悲しみに満ちた幼い少年の声だった。
「ごめん…。」
「こんな風に美羽の前で気持ちが乱れるなんて俺だって情けないよ。でも美羽が好きで好きで仕方が無いから弟君に嫉妬せざるを得ない。」
「…。」
「美羽。」
「ん?」
「頭冷やしたい。俺達暫く会わないでおこう。」
私が振り向くと俯いたままで立ち尽くす瞬一さんが居た。
私は掛ける言葉も思い浮かばず静かにその場を離れ鞄を手にし外に出た。
アスファルトに濃いグレーの玉模様が出来る。
それはトボトボと力無く駅に向かって歩く私のこぼれ落ちていく涙だった。
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