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行き交う人々に見られたく無くて髪を解いて顔を隠す。
それでもこれだけの涙を流していれば異変に気付き振り返る人は居るけれど止まらない涙。
私は瞬一さんだけを好きになる為に彼だけを想い捧げた。
瞬一さんが沢山の優しさをくれるから私は女としての愛される喜びを知った。
彼だけが側に居てくれれば見ていてくれたならば私は大丈夫だと自分を信じられた。
本当にそう思っていた。
でも。
大事な家族を守りながら私は自分で自分を閉じ込め拓への開きかけた想いを大きくならない様に上からクシャッと押し潰したはずだった。
頭が…フラフラする。
駄目だ。
立っていられ無い。
やっぱりまだ本調子じゃ無いのに会社に行ったりしたから…。
冷や汗が額を伝う。
涙顔で見上げると駅が目に入ってきた。
ふらつく足取りでなんとか改札をくぐり駅のホームのベンチに座った。
帰る方面の電車が何度もホームに入って来るけれど一向に乗り込めないまま私は暫く蹲るようにして座っていた。
するとトントンと肩を叩かれ顔を上げると駅員さんが立っていた。
私のこの顔色の悪さを見るなり何度も大丈夫かと聞かれた。
額から滴り落ちる汗をハンカチで押さえながらなんとか駅員さんとやり取りを続ける。
水が有るかと言われ持っていないと話すと今丁度買って来た蓋の開いていない物が有るのでそれを私に譲ってくれた。
心がグチャグチャなこんな時でさえも優しさを与えてくれる人が居る。
私はそう思いながらありがたく水を受け取る。
瞬一さんも最初から私に対して本当に優しくて良くしてくれた。
拓と家族をやって行くと決めてポッと空いた心の隙間を埋めてくれた。
安心感に包まれそしてそれはとても心地が良く温かかった。
だけど私はそこに甘えてしまっていたのかもしれない。
瞬一さんの立ち居振る舞いに胸が高鳴り憧れた。
近付けば近付く程好意を持てた。
瞬一さんが私を好きになってくれて何時の間にか私も瞬一さんを見ていた。
拓では無くあの時は確かに瞬一さんを見ていたのに。
…心が割れてしまいそうで苦しい。
浅い呼吸を続けながら来た電車にやっと乗り込み端の空いている席に腰を下ろすともらった水を流し込みペットボトルを鞄にしまい目をつぶった。
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