episode 9

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episode 9

ん…。 あれからそのまま眠ってしまい目が覚めると見慣れた風景が目に入り地元の駅迄あと少しだった。 額の汗は止まっていたけど泣いたせいで目元がジンジンと熱を持ち重たかった。 鞄からペットボトルを取り出して渇いた喉に流し入れると電車は地元の駅のホームに入って行った。 ドアが開き私は頭も足下もふらつく状態で手すりを伝いながらホームに降りた。 家に帰ると玄関にお父さんの靴があって私は口角を無理矢理キュッと上げ普段と変わらない様にただいまと言ってリビングへ行った。 ビール片手にテレビで野球観戦をしながらくつろいでいるお父さんがこちらを振り向きおかえりとご機嫌に返してくれた。 あまり顔を見られ無い様にして私はキッチンに向かい冷凍庫から保冷剤を一つ取り出すと自分の部屋に入った。 鞄を放って体をベッドに預け重たい瞼に保冷剤を乗せた。 カチカチカチ…。 ヒンヤリと冷たい…横になっていてもフラフラする頭…壁の時計の音。 瞬一さんや他の沢山の事を必死で考え様とするけれど今は目や耳から入って来るその情報だけで手一杯な位だった。 間もなくしてガチャリと玄関の方から音がしてただいまと拓もお父さんと話しているのが聞こえてきた。 バイトだったのかな…。    すると扉をノックしてきて私は慌てて保冷剤をサイドテーブルに置き上半身をベッドから起こして返事をする。 起き上がった時にふらつき頭を手で押さえた所を扉を開けた拓に見られてしまった。 「美羽っ…。」 拓が駆け寄り心配そうに私を覗く。 「拓…おかえり。」 「体調まだ良くなって無いんじゃないか?」 「う、うん…。」 スッと額に拓の手が添えられる。 「熱は無いみたいだけど…泣いたの?美羽。」 まだ腫れぼったい目元を拓に見つかってしまった。 「う…ん。」 「大丈夫?話せる?」 拓が優しく私に聞く。 「瞬一さんとちょっと…ね。」 「そう…。」 拓は私の頭をそっと撫でるだけで瞬一さんとの事はそれ以上聞いては来なかった。 ベッドに腰を下ろして私の体調ばかりを気遣う拓。 「…頭と足下がフラフラして余り力も入らなくて。」 「美羽。明日仕事休める?俺が付き添うから病院に行こう。」 「皆に迷惑が掛かるから本当は行きたいけど頭も回らないし仕事がはかどらないかもしれない。」 「分かった。じゃあ明日俺も大学休むから一緒に行こう。」 「何か拓にも迷惑掛けちゃう。一人で行け、、」 「途中で倒れるよそんなんじゃ。」 拓に言葉を遮る様に言われた。 「分かった。拓の言うとおりにするね。」 私の言葉に安堵した拓はニコリと笑い部屋を出た。 確かに明日デスクで瞬一さんとどんな顔で会えば良いのだろう。 私の顔なんて今は視界に入れたくも無いんだろうな。 そんな事を思っていた。
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