episode 9

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翌朝。 私は早起きをしてまず会社にお休みの連絡を入れ拓と家の前からタクシーを拾って近くの病院へと向かっていた。 朝起きると昨日の症状がまだ続いており朝食も何時もの半分も食べられ無かった。 頑張って食べ様として口に食パンを運んだけれど気分が悪くなってしまってそれ以上食べるのを止めた。 けれど水分は受け付けるのでコップ一杯の牛乳を拓に注いでもらって飲みきった。 行く前に体温を測り36.2℃。 熱は無い。 本当なら地元の病院だし自転車で行った方がお金も掛からずに経済的だけれど頭と足下のふらつきがある為お父さんが不安に思ってタクシー代を出してくれた。 お父さんも具合の悪い私に付き添いたいみたいだったけれど拓も居るからと仕事に行くよう私が促した。 窓からの景色をじっくりと見る暇も無い位にあっという間に病院に到着した。 拓に支払いを任せると私が先にタクシーを降りる。 後から拓も降りて来て病院の受け付けに向かう。 平日だけれど朝早く来られたお陰で三番目の予約が取れた。 待合室の椅子に二人並んで座り問診票を記入していく。 「あの子達…。」 「どうしたの?」 待合室の椅子に座っている男女の小学生位の子供を見ている拓。 男の子の額には冷却シートが貼られぐったりと女の子の肩に頭を乗せて辛そうにしている。 「どう見ても熱がある感じだよな。でもあの子達二人だけで来たのかな。周りに大人は居なそうだけど。」 ペンを止めて私も周りを見渡すが親らしき人は見当たらない。 「そうだね。なんとなく女の子の方がお姉さんで弟を連れて来てるって感じに見えるけど大丈夫かな…。」 「そうだ…。」 「そう言えば…。」 きっと頭に浮かんだ光景は同じだ。 「拓も思い出したんだね?」 「美羽もか。」 小学生の頃私は熱を出した拓を病院に連れて来た事が一度だけあった。 お父さんが仕事で休めず代わりに私が頼まれたのだ。 「あの時は病院に付き添ってもらった後も美羽が看病してくれてたよな。」 「うん。昔の話しだから忘れてたけどあの子達見てたら思い出した。」 「きっと俺達みたいに両親が付き添えなくて自分達だけで頑張って来たんだろうな。お姉ちゃんの方?はしっかりしてそうな顔してるから大丈夫かもな。」 「そうだね。動じてない感じだね。偉いね。」 こちらを振り返る拓が私に。 「今更だけどあの時は看病してくれてありがとう。」    「急にそんな、良いから。私だって看病してもらったしお互い様だよ。」 拓は私を逃がさない真剣な顔で。 「俺は美羽が心配。何時も元気で笑っていて欲しい…。」 「拓…。」 「当分の間俺が看病するから嫌な事とか考え無い様にしてゆっくり休んで。美羽が元気になるの父さんだって待ってるからさ。」 「うん。そうだね。早く元気にならないとね。」 「番号札三番でお待ちの高井様。」 看護婦さんに呼ばれ私の腕を取って拓も診察室に入った。
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