episode 9

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診察室に入り約十五分位だろうか。 美羽は体調の事を細かく先生に伝えていく。 聴診器で胸の音や喉も診て貰い全ての診察が終わった。 診断結果は風邪が完全に治りきれていないとの事だそうだ。 先生から薬を処方され栄養のある物を食べ睡眠もたっぷりととるようにと言われた。 最後に先生は美羽の横に居る俺の方を見るなり君も顔が疲れている様に見えるから二人で一緒に栄養のある物を食べなさいと俺に迄指導が来た。 会計を済ませ薬も受け取ると再びタクシーを捕まえ病院を後にした。 乗り込むなりクスクスと笑う美羽。 「まさか付き添いの俺も指導されるとは。」 「びっくりしたね。でもさ昔から良い意味でお節介な優しい先生だから変わって無くて良かったよね。」 「まぁな。」 「拓も最近色々忙しかったでしょ?だから帰りにスーパーで野菜やお肉を沢山買って免疫力の上がる料理を作ろう。」 「いや、美羽まだふらつきあるし俺が後で一人で買い出し行ってくるから。」 「そうしてくれると今は正直助かる。ありがとう。でも拓もあまり無理しないでね。私だって拓が…心配なんだから。」 「…言われてみると恥ずかしいもんだな。」 拓が頭をクシャッとかいた。 そんな風に顔を赤らめて照れる素の拓を久しぶりに見た。 胸がじんわり温かくなった。 タクシーを降りて美羽を部屋に送り届け直ぐにまた外に出てスーパーへと向かった。 『拓が…心配なんだから。』 美羽の口からはっきりと聞こえてきたその言葉が何よりも嬉しかった。 俺は今美羽を側でこうして見ているだけで幸せだと思える。 気持ちが先走っているばかりの俺にとってはこれ位が丁度良いんだ。 以前の俺は陰を潜め美羽を客観的に見られる様になってきたのかもしれない。 早く元気になれ美羽。
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