episode 9

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「ただいま。美羽は具合どう?」 晩ご飯で食べられそうな惣菜を片手にぶら下げて父さんが帰って来た。 「あ、お帰り。やっぱり風邪が治りきってないみたいだった。薬ももらって来たし今俺またお粥作ってるから。」 「お粥なら美羽も食べられそうだな。買い出しは明日父さんが行くからな。」 「病院から帰って来て直ぐに俺が行って来たよ。適当に見繕って来たから父さんも使って。」 「そうか、ありがとう拓。」 「そうそう。あの病院のお爺ちゃん先生まだ現役バリバリで頑張ってたよ。なんか付き添いの俺に迄診察みたいな事言って来てさ。」 「あそこの先生は地元じゃ有名な方で名医と聞いたぞ。何でも他の病院をたらい回しにされた患者さんの病を見抜いた先生で大変感謝されたとか。」 「へぇ。それは凄いな…だったら美羽は安心だ。そんな凄い先生に診て貰えて。」 「そうだな。美羽が元気になったら三人で温泉にでも行くか。久しぶりの家族旅行だ。」 「そう…だね。」 俺は小さく返事をした。 父さんの口から家族という二文字を聞くと胸をギュッと掴まれる感覚を再び覚える。 ふぅ…と深く深呼吸をして鍋のお粥の具合を確認する。 最後に溶き卵を入れようと冷蔵庫を開けると卵ケースが空っぽだった。 買い忘れたと気付き財布をズボンのポケットに入れて家を出ると外はすっかり暗くなっていた。 お腹がグゥと鳴りそうな位自分もお腹が空いていたので早く買い物を済ませて夕飯にありつきたかった。 美羽には卵粥で俺と父さんはお粥を作る為に沢山炊いた白米でざっとチャーハンでも作ろうかと考えながらスーパーに向かった。 確か炒めたご飯に振りかけるだけで簡単にチャーハンが出来てしまう物があるとテレビで見たのを思い出し卵を買うついでにそれも一つ買い会計を済ませた。 二人を待たせてしまっているので足早に家へと歩を進めて行く…ん?あれは…神谷さん?それに隣に居るのは橋本だった。 二人で仲良く楽しそうに駅の方に向かって歩いている所に遭遇した。 最初に気が付き俺に声を掛けてきたのは橋本だった。 「あっ、拓!」 何時もの明るい橋本だった。 「今晩は。この間はどうも…電話で。」 神谷さんはもっと何か言いた気な様子で。 「拓は買い物だったの?」 「うん。橋本は二人で何してたの?」 「神谷さんがね今度転勤する際にお世話になった人に何か配りたいみたいで家の焼き菓子を注文してくれたんだよ。」 「そうだったのか。」 「美羽は体調どう?俺忙しかったから今日は連絡して無いんだ。」 美羽から聞いていたから嘘だと直ぐに分かった。 「今日病院に行きました。先生の見立てでは風邪が治りきっていないんだろうと。それと食欲もありません。」 「そうなのか…。」 「俺今から美羽に夕飯作らないといけないんで失礼します。橋本またな。」 「うん。またね拓。」 俺はそう言うと二人の横を通り過ぎ一度も振り返る事無くひたすら家を目指した。
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