episode 9

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途中で信号に引っかかり待っている間俺はずっと考えていた。 神谷さんに会った事を美羽に言うべきかどうかと。 美羽と神谷さんに一体何があったのかは知らないが今俺の口から神谷さんの名前を出したら美羽の具合がもっと悪くなる気がしてやはり言わないでおこうと心に決めた。 美羽が目を腫らす程泣くなんて…。 俺は今更神谷さんに腹が立ってきた。 だけどそんな風に思う俺だって似た様な事を美羽にしてきた訳であって咎める資格も無いんだ…。 そんな事を考えていると周りの人がぞろぞろと歩き出して行くのが横目に入ってくる。 信号が青に変わり俺も一歩踏み出したその時。 俺を呼び止める神谷さんの声が聞こえた。 神谷さんが俺と横断歩道を渡りきるとそのまま肩を並べて歩き出す。 今さっき橋本と一緒に駅の方へ歩いていたのにまた戻って来たのはどうしてか尋ねると神谷さんは転勤前に俺と話がしたかったらしくとりあえずマンションの下で少し話す事にした。 「俺に話って何ですか?」 「一花ちゃんと別れたみたいだね。」 「それが神谷さんの話したかった事ですか?」 「いやさ、別れたのに案外普通なんだなと思ってただけ。まだ付き合ってるのかと勘違いする位普通に。」 「別れても友達に戻って仲良く普通に出来る二人も沢山居ます。橋本とはネット販売を計画してたりもするんでこれからも良い関係を築いて行こうと思ってます…もう良いですか?夕飯作らないといけないんで失礼します。」 「あっ、本題はそれじゃ無い。」 「はい?」 「美羽の事。」 神谷さんの顔付きが変わる。 「君からお姉さんを引き離して美羽は俺の彼女になってくれた。」 「引き離してなんて大袈裟ですね。」 「まぁ聞いてくれよ。」 「はぁ。」 「付き合い出すと好きな物も似ていて毎日が凄く楽しい。美羽は良く笑ってくれるし若いのに人間が出来上がっているから一緒に居るとこちらがとても心地良くて俺の中で最高の女性なんだ。」 「…良かったですね。」 俺は口先だけでそう言った。 「だからそんな美羽が大切で一人で勝手に美羽との将来だって考え始めた。」 結婚したいって言いたいんだな。 「一生の内で心から大切にしたいと思える女性に出会うのはそうそう無いと俺は思う。」 早く言えば良いだろ? 「まだ君は分からないかもしれないけど俺位の歳になってくるとそう思えてくるんだよ。」 回りくどいな。 「もう数年も経てば俺だって三十になる。仕事も勢いづいて来ている今、俺は美羽と結、、」 「結婚っ…ですか。」 俺がそう言うと少しの間の後に。 「…君と美羽は心からそれを望むの?」 神谷さんはそう言った─────。
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