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私なんかと一緒になってくれるなんて信じられ無い。
瞬一さんはそんな未来を考えてくれていたんだ。
私と結婚だなんてお父さんも拓もきっと喜んでくれる…に…。
ふっと瞬一さんの顔と拓が重なって見えて瞬きをするけれどどうしても瞬一さんから消えてはくれない。
瞬一さんが言ってくれたその言葉はまるで拓が言ってくれたかの様に私の中にジンワリと伝わって来る。
私に囁くこの人は私を好きで居てくれる瞬一さんに変わりないはずなのに。
この安心する落ち着いた声も私を見つめる透き通る瞳もどれも瞬一さんなのに。
ポロッ…。
「あっ…ごめ、ごめんなさい。」
私は涙顔で俯く。
「…それは悲しいんだねきっと。」
「えっ…。」
すると窓越しに外を眺めながら瞬一さんが。
「美羽の最初の印象ってさ外見は勿論可愛いなって思ってはいたんだけど若いのに人間が出来ていてしっかりしててとても良い子だなと思った。好きになるのにそんな時間は掛からなかった気がする。いざ付き合ってみても変わる事無く美羽は美羽で…」
「…。」
「良い子の美羽のままだった。」
先に注文していた瞬一さんがカフェラテを啜る。
カチャッとカップを置くと同時に私に。
「一つ聞いても良い?美羽は本音で人と向き合った事ある?」
「本音で…。」
「そう。それか誰か一人でも良いから相手の顔色なんて覗わずに自分の本当の気持ちぶつけた事とか。」
「無いかな。そんな風にしたらわがままみたいになってしまうから。」
「はぁ…ったく。美羽も弟君も。」
「拓が何?」
「美羽。俺達別れよう。」
「えっ、、」
「今プロポーズしたのは勿論本気だった。だけどもし美羽が受け入れてくれても俺から断るつもりでいた。美羽が大好きで幸せになってもらいたいから。」
「意味が良く分からないかも。」
「いいか美羽。世の中俺を含め皆自分の事しか考えて無くて自分に対してわがままだ。美羽が家族を大切にしていきたい気持ちから自分の感情や大切な気持ちに蓋をしてしまった。そうする事が平穏に暮らせる方法の一つだと良い子の美羽は思った。でもそれは違うよ。人は周りに迷惑掛けながら生きているもんなんだよ。皆もっと感情をぶつけ合ってる。」
「迷惑を…。」
「そうだよ。美羽、もっと感情のまま素直になれ。好きな物を周りなんか気にする事無く素直に好きと言えば良いんだよ。拓哉君は美羽のその言葉を待っている。」
「拓が…?」
「俺は今でも美羽を見れば抱きしめたくなる程に想ってしまっているけれど残念ながら美羽の側に俺は居られない。だから自分から去ろうと決めた。けど美羽には幸せになってもらいたい。拓哉君と。」
「瞬一さん…。」
「俺は美羽という本当に素敵な女性に巡り会えて嬉しかった。正直悔しい気持ちもあるけど美羽が幸せになれないのはもっと嫌だからな。」
瞬一さんは私の胸の中をお見通しだった。
私は結果瞬一さんを傷つけてしまったと自分をひたすら責めた。
喫茶店を出て一人電車に乗り込んだ後も瞬一さんを失った喪失感からまた涙が溢れ流れ落ちた。
そして私は最後に向けた瞬一さんのあの温かい眼差しを永遠に忘れてはいけないと強く思った。
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