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もっと感情のまま素直に────。
瞬一さんを失った喪失感を抱えながら頭の中では言われたその言葉がずっと響いていた。
両親を亡くしてから私は周りに迷惑を掛けたら居場所を失う…家族がまた無くなってしまうと子供ながらに思っていたのを思い出す。
周りに迷惑を掛けない様に良い子でいなければと自分で言い聞かせていた。
思い起こせば私という人間はその頃から確立されて行ったのだと思う。
でもそうしていくうちに日々誉められる事も増えて私は間違っていなかったのだと確信した。
だけどお父さんは子供の私に美羽は拓の様にお父さんにおねだりしたり時には甘えたりしなさいなんて普通の子供とは逆の事を私に言ってきた。
お父さんはそうは言ってくれたけど私は一人になり家族を失う怖さでやっぱりそんな風には出来なかった。
私が少しのわがままを言った所で優しくて私を見捨てたりなんかしないお父さんだって頭では分かっていたけど私が自分で植え付けてしまったしがらみに囚われ留まり続けたんだ。
家族、お父さん…拓。
私が守りたかった大切にして行きたかった物。
だけど自分の気持ちが今にも暴走してしまいそうでそんな大事な事も深く考えられない。
私は瞬一さんのあの思いのこもった目と言葉がずっと頭にこびり付いて離れず、私の中のくすぶっている想いを駆り立て自分でも信じられない程にそれを口にしたくてしょうが無かった。
瞬一さんの思いも無駄にはしたくない。
分かっている。
私が感情のままにそれを口にしたらどうなるかなんて。
でも初めて感じるこの抑えきれない想いに今私はしがらみから抜け出し自分の未来を委ねたいと思った。
後悔なんてやっぱりしたくなんか無いから。
瞬一さん。
瞬一さんの目に映っていた私は良い子なんかじゃ無いんです────。
「もしもし拓っ。美羽です。」
「どうしたの?」
私は後先考えず拓に今会いたい気持ちだけでスマホを握りしめていた。
拓の声が耳から入って来ると側で抱き締められている様に感じた。
「拓、今何処?」
「これからバイトに向かう所だけど…何かあったのか?美羽。」
「何も…何も無い…よ。」
「用は無いって事?」
「…うん。」
「美羽…?」
「会いたい。」
「え?」
「拓に会いたいっ!」
心を奮わせながらそう叫んでいた。
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