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俺は胸にこれからの沢山の思いを抱えだけどこの手から伝わる美羽の温もりがこれから待っている不安を消し去ってくれるかの様で安心出来た。
美羽が居てくれるなら。
私は拓とのこれからを考えお父さんにもきちんと話さなければならない。私の想いが弾けたからにはもう後戻りは出来ないしするつもりも無い。
大丈夫…拓が居てくれるなら。
思いつきで電車に乗り会話を楽しみながら約二時間は経っただろうか。
だけど美羽とのその時間は俺にとってはほかの何にも変えられない愛しい時間だった。
このまま何処までもずっとずっとこの時間が流れれば良いのにと切に思った。
俺が美羽を想ってきた時間に比べたら果てしない位に足りないのだから。
俺達の乗った電車が目的地付近を走り抜けると目の前の窓から海が見えて駅に着きドアが開くと体中が潮風に包まれた。
「うわっ、懐かしいなこの風景。」
ホームに降り立つと手前には民間が密集してはいるもののその直ぐ先は一面の海が広がりもう薄暗い外の中でもゆらゆらと水面が揺れているのが分かる。
「そうだ、この海に来たんだよね私達。本当懐かしい。」
「昼間の明るい時間に来たらもっと思い出すよな色んな事。」
「潮の香りで少しずつ蘇ってきてるよ…でも確かに昼間目で見た方がより鮮明かもしれないね。」
「あっ、あの民宿のおばあちゃんまだ元気かな?」
「えっ、拓…こんな事言ったら失礼だけどもう記録更新レベルの年齢になってらっしゃると思うよ。」
俺達家族がお世話になった民宿を営むおばあちゃんがとにかく面白い方で話し出したら止まらず二泊しか滞在期間が無かった俺や美羽を孫の様に可愛がってくれた。
「会いに行ってみるか。」
「覚えてるかなぁ。」
「美羽は子供の頃からの面影がまだ残ってるから良く見てもらえば大丈夫じゃないか?」
「そうかなぁ。拓は…あぁ、顔立ち変わりすぎとなんせ背が倍ぐらい違うからおばあちゃん思い出せないね。はは。」
そんな会話をしながら改札を通り海の方へと歩を進めおばあちゃんの民宿を目指した。
その途中の薄暗い道にも小さな思い出は転がっていた。
海に続く坂道を美羽と一緒に転がりそうになりながらダッシュして駆け下りた事。
民家の塀の上や小道に猫を沢山見かけた。
俺が連れて帰りたいと子猫を抱いて父さんにお願いした事。
探せばまだあったけど。
気が付くとあの民宿の前に辿り着いていた。
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