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外壁は前と違って綺麗に塗り直されてはいるがそれ以外は昔と何も変わってはおらず懐かしさが増すばかりだった。
家の中は電気も点いていて営業している雰囲気を感じたが人の気配が無いのが気になった。
今晩はと美羽と俺は挨拶をしてガラッと戸を開けた。
するとおばあちゃんが何時も座っていた木製の茶色い椅子が目の前に飛び込んできて俺達は嬉しそうに思わず顔を合わせた。
そしてもう一度今晩はと言ってみる。
おばあちゃんがのれんの向こうから杖でも突きながら歩いて来てくれるのを想像しながら。
「はい。あ、ご宿泊の方ですか?」
そう言って出て来たのはおばあちゃん程歳はとってはいないが年配の女性だった。
「夜分にすみません。あの昔…と言っても今から十年程前なんですがこちらの民宿に泊まらせてもらったんですけれど…。」
「そうなんですね。それはありがとうございます…で、ご用件の方は?」
「あ、はい。実は僕達がその当時まだ小学校だった頃この椅子に何時も座って良くお話しをして可愛がってくれたおばあちゃんに会いたいと思って訪れたんですがお元気にしてらっしゃいますか?」
「そう言う事でしたか。たまにいらっしゃるんですよ懐かしくておばあちゃんに会いたいと来て下さるお客様がね。」
「私、おばあちゃんとここの夕飯の買い出しに着いて行った事もあったんです。」
「まぁ!それはそれは。おばあちゃんは本当に子供が大好きだからね。その日に知り合った子だとしても自分の孫みたいに思って可愛がるんですよ。」
「たった数日間でしたが良い思い出になりました…それでおばあちゃんは?」
「…実は。今はここには居ないんです。」
俺達はその後に続く言葉を悲しみの中で想像してしまった。
「そう…でしたか。」
「とは言ってもここに住んでいないだけで今は介護付き老人ホームに居るんですよ。」
パァッと顔色が明るくなりまだおばあちゃんがご健在だと知って心から嬉しくなった。
「本当ですかっ!わぁ、良かったな美羽。」
「うん!」
すると民宿のおばさんは美羽の顔を見ながら言った。
「ん?美羽?あ、美羽ちゃんだ!」
「え?はい。美羽です。」
「思い出したわ!美羽ちゃんは私の事覚えていないと思うんだけどおばあちゃんがタレントさんになれる位の可愛い子が泊まりに来てるって私に話していたのよ当時。そうだそうだ…あらぁ、どうりで可愛い方だと思ったわ。」
美羽が顔を赤らめながら俺をチラッと見る。
おばさんの言う通り俺も同感していた。
「私は当時まだこの民宿をたまにしか手伝っていなかったから今日やっと会えて良かったわ。それより…。」
おばさんが俺達二人の身なりを気にしている。
「泊まりに来た感じじゃ無いわよね?美羽ちゃんの方は何だか仕事帰りって格好で。」
「はい…急に思い立って来たので。」
「ご飯はもう食べた?」
「いえまだです。」
「良かったら今夜泊まっていく?ご飯もあるのよ実は。」
予期せぬ展開に俺は美羽の方に顔を向けられないままでいた。
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