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着替えてリビングに戻ると黙々とした湯気が目に入った。
テーブルに置かれた赤色の可愛らしい鍋の中を見ると人参やソーセージ、それからジャガイモなんかがゴロッとスープに浸っていた。
「ポト…ポト…何だっけ名前。」
「ポトフだよ。ふふ。」
「あは、そうだ。何時もあれと名前勘違いするんだよな。あの観葉植物のポトスと。」
「ポトフとポトス…似てる。何か私まで今度から間違えそう。わわわ。」
美羽は頭をフリフリとさせて取り皿を運ぶ。
それを受け取りテーブルに並べながら、
「ポトフまで作れる様になって料理のレパートリー増えたよな。どれも美味いし。」
素直にそう伝えた。
「料理の本見て作ってるからそのお陰かな。実力とかでは無いんだけどね。あぁ、今夜のポトフはコンソメのスープの中に材料を入れて煮込めば完成だからこれは簡単で誰にでも出来ちゃう料理なんだ実は。あはは。」
照れ臭そうに笑う美羽も可愛いかった。
「いただきます。」
「いただきます。」
父さんは吞み会がある為夕飯はいらないそうだ。
湯気の立っているポトフを皿に取り口にゆっくりと運ぶと良く煮えたホクホクのジャガイモにコンソメの味が染みて一口目から美味しかった。
「はふ…美味しい。」
火傷しそうに中が熱いジャガイモにびっくりしながらそれを頬張る。
父さんが居ないので今夜は美羽の目の前に座っている。
俺のジャガイモで忙しい顔が丸見えになってしまった。
「あはは!そうそう、ジャガイモって油断すると中が凄く熱いからね。お水持って来るよ。」
棚から硝子のコップを取り出し氷を沢山入れた水を俺にくれた。
ごくごくと勢い良く流し込んだ。
「落ち着いた?」
「うん。ありがとう。」
「なんか幸せだな。」
「どうしたのいきなり。」
「私の作った大した事ない料理を拓やお父さんが美味しいって食べてくれてさ。」
「だって本当に美羽の作る料理美味いからな。でも仕事から帰って来て毎日作るのは大変だよな。しかも最近帰り遅い日あったり休日も出勤してる?」
「あ、うん…そう。残業とかすると手当てつくからさ…。」
料理の話から仕事の話になった途端美羽の顔色が変わり急に下を向いて目を合わせなくなった。
なんとなく胸が騒いで思い切って聞いてみた。
「違ってたらごめん。美羽…お金が必要なの?」
口に入れようとしていた人参を器に戻し美羽は顔を上げた。
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