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おばさんにそう言われて結局俺達は一晩この懐かしい民宿に再び泊まる運びとなった。
二階へと続く軋む階段を上がって行くと和室の部屋があり二人で丁度良さそうな広さで何より窓からの海の景色が最高だった。
夜は夜で僅かに見える海を見渡しながら波の音を聞くのも悪くなかった。
寧ろ俺はこっちの方が好きだと思う位に。
俺達は一先ず鞄を部屋に置き財布だけ持って近くのコンビニまで足らない物を買いに出た。
十年前に比べたらこの辺り一帯は随分と新しい店も増えて若い世代の人とも良くすれ違う。
皆海を求めて移住しにやって来るのだろうと思っていた。
俺と美羽は将来どんな街で暮らしているんだろう…なんて想像しながら空いている美羽の手を取った。
美羽も握り返してくれてまた一つ幸せをくれる。
「そうだ。浴衣あるのかな?民宿ってホテルと違うからそういうの用意して無かったりするよね。」
「だな。どうするか…あ、コンビニでメンズ用のTシャツとか売ってるからとりあえず間に合わせに買っとく?」
「そうだね。大きなサイズだったら寝巻きになりそうだね。」
「あと、歯ブラシとか下着もいるな…トランプも。」
「トランプ…あっ!スピード!」
拓とこの民宿に泊まった時に遊んだトランプのスピード。
1から13迄のカードをお互い出し合い最後手元のカードが早く無くなった方の勝ちというゲーム。
拓も私も互角の勝負を繰り広げ横でお父さんが先に寝てしまっていても夜遅くまで夢中でやり続けた。
暫くしてコンビニに着くとカゴを手にし思い思いの品物を入れて行く。
「美羽あったよ。LLサイズで良い?白しかないけど。」
「うん。大丈夫…。」
「あっ、下着は自分で会計するから…。」
「おぉ…そうだな。分かった。じゃあ後は俺会計しとく。」
「ありがとう。後で割り勘しよう。」
俺達は会計を済ませると宿に戻りおばさんの用意してくれた夕飯を頂いた。
この海で獲れた魚を甘く煮付けた物や天ぷら、酢の物なんかも出してくれた。
「美味し~。」
美羽が魚の煮付けを口にし目を細め堪能している。
「美羽ちゃん気に入った?それ。」
「はい。私もたまに煮付け作ってみたりするんですけどこんなに柔らかく美味しく出来ないんです。」
「そっか~、多分ね魚が獲れたてだから鮮度の問題かもしれないね。食べようと思ったら目の前で獲れちゃうからさ。」
「それは確かにそうかもしれない。でもこのタレもとても美味しくて。」
「あら、良かったらレシピ書いてあげようか?」
「良いんですか?嬉しい!是非お願いします。」
美羽はおばさんの料理が気に入りその他にも色々な料理のレシピを教えてもらっていた。
なんかこの二人本当の親と娘みたいだ。
きっと美羽のお母さんが生きていたら美羽もこんな風に甘えたりするんだろうな…なんて思って見ていた。
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