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「はい、うん。これで大体はもつかな。一週間の晩ご飯。」
「ありがとうございます。助かります。早速帰ったら作ってみよっと。あ、そうだ。携帯番号交換しても良いですか?途中で作り方とか分からなくなった時に聞きたいんです。」
「えぇ。大丈夫よ。ちょっと待ってて…そうだ、明日は二人共仕事?休み?」
「私は仕事で拓は大学があります。」
「拓君は大学生か。どっちかなって思ってたけど。そうかだったら電車の時刻表も必要よね?今持ってくるわねスマホと一緒に。」
「あの時刻表は無くて、、ま、いっか。」
今はスマホで簡単に電車の時刻表を見られてしまうのをきっとおばさんは知らない。
だけどそんな親切心を無駄に出来ずに頂く事にした。
ふと考えてしまう。
明日は仕事に大学にと何時もの現実に逆戻りしてしまうと俺は寂しくなった。
「仕事…休もうかな。」
「え?」
「あはは。言ってみただけ。」
美羽は冗談にしてはほど遠い顔で俺にそう言った。
「んっ…。」
俺は片手で美羽の顔をすくい上げ奥に居るおばさんに見つからない様に唇を奪った。
「は~い、お待たせしました。時刻表は一枚で良いかしら?」
「あ、はい、一枚あれば大丈夫です。ありがとうございます。」
「どういたしまして。えっとスマホの番号はっと…。」
美羽が俺と同じ気持ちで居てくれる事が嬉し過ぎて美羽に触れたい衝動に駆られた。
もしこの場所ではなかったらその気持ちは抑えられないものとなっていたに違いない。
「で、この四角い黒の画面を美羽ちゃんに撮ってもらえばオッケーなのよね?」
「はいそうです。今撮りました。登録します。」
「ありがとう。これからは歳の離れたお友達ね私達。何か若返った気分。」
「こちらこそ嬉しいです。お料理の件じゃ無くても電話しても良いですか?」
「勿論よ!待ってるわ。」
ふと壁に掛かる時計に目を遣るとおばさんはお風呂へと俺達を促した。
言われて一度部屋へ上がり下着等を持ってまた下に下り男湯女湯に分かれて入って行った。
ガラリと戸を開けると誰も入浴してはおらず貸し切り状態な風呂にゆったりと足を伸ばし浸かる。
耳を澄ますと外から波の音が優しく聞こえて明日の事など考えたくも無かった。
…。
美羽は隣でどんな気持ちでこの波の音を聞いているのだろう。
もしかしたらまた同じ様に考えてたり思ったりしてるのかな。
今晩俺達二人きりの夜をあの部屋で過ごすという事───。
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