episode 10

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湯船から出て頭や体もコンビニで買ったシャンプー等で全て洗い終わると持って入ったフェイスタオルで水滴をざっと拭き脱衣所に行く。    とりあえず着てきた洋服をまた着て備え付けのドライアーで髪を乾かした。 洗面台の鏡に映る緊張し強張る顔をパンッと叩き廊下に出る。   さっき夕飯を食べた広間に行くと美羽の姿は無くまだ風呂に入っているか先に部屋に戻っているのかもしれないと思い俺は近くにあるウォーターサーバーで水を一杯もらうと紙コップを持って二階へと上がった。     部屋の扉を開けると中は暗くて美羽はまだ居なかった。 ザザァ…。 湯船に良く浸かり過ぎ涼みたくて窓を開けた。 潮の香りのする夜風が気持ち良くてでも何処か儚く悲しげなそんな風に癒されていると後ろで扉の音がした。 髪を後ろで括って俺みたいに美羽も着ていた洋服をまた着ていた。 「拓早かったんだね。」 「うん。男の風呂だしな。そうだ、風呂貸し切り状態だった。」 「本当に?こっちもだよ。」 「ちょっと思ったんだけど夕飯食べてる時も風呂も人とすれ違って無いって事は今日もしかしたら宿泊客俺達二人だけだな。」 「そうだよね。私も誰とも会って無いし。わぁ、なんか贅沢…。」 「だな。」 「拓風に当たってたの?私も涼もうっと。」 美羽が外に目を遣りほんのり赤い顔をして俺の側に来ると一緒に潮風に吹かれた。 「美羽下で水もらって来た?」 俺が手にした紙コップを美羽に見せる。 「水?あったんだ。目に入らなかったな。」 「飲む?まだあるけれど。」 「良いの?ありがとう。」 紙コップを渡すと美羽はクイッと顔を上げて水を流し込む。 ザザァ…。 さっきから止むこと無く聞こえてくる波の音を聞けば聞くほど悲しくて寂しいのは何でだろう。 すると美羽が。 「何にも無い海を見たり波の音を聞いたりしてると心が落ち着くんだよね私。子供の頃家族で来た時も同じ様に感じたの。だけどねこの波の音が私の悲しみにも響いて来るんだ。落ち着くのに変な感覚だった。だけどね目を閉じて少し経つとゆっくり空気が抜けていくみたいにその悲しみや寂しさが私のそれを全部のみ込んでくれるの。この広くて大きな海が。」 美羽に言われて気が付けた。 波の音が悲しい程に俺の心にも響いてくる理由を。 美羽と要約一緒にこうして居られるはずの俺に待ち構えているこの先の不安だった。 帰宅して俺達二人の関係をどうやって打ち明けたら一番良いのか。 けどそんな不安なんて少しだって美羽には見せてはいけないんだ。 俺が美羽を守り愛して行くのだから。 そう…この広くて大きな海に俺の心の不安も全て持って行ってもらおう。 そう思うと俺は美羽の横で静かに目を閉じた。
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