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アラームと同時に起きたけれど美羽も俺も仕事と大学を休んだ。
二人が共に心に引っ掛かる父さんとの事を考えたかったから。
それが済んでからでないと俺と離れたくないと美羽がそう言ってきたのもある。
美羽が職場に電話を掛けている間に俺は美羽の分の布団も畳み洋服に着替えて洗面台で支度を始めた。
電話を終えた美羽が洗面台に来て横に並んで歯ブラシを持ち歯磨き粉をのせている隙に美羽の頬にゆっくり口付けをした。
びっくりした顔で鏡越しに照れ笑いを浮かべる。
甘い朝に酔いしれる俺のお腹がグゥと鳴った。
「おはようございます。」
すると入り口の方からおばさんの声がした。
「おはようございます。」
扉を開けるとおばさんが朝食の用意がある事を昨日伝え忘れていたと知らせに来てくれた。
どうりで扉を開けた瞬間香ばしいパンの香りが漂ってきていた訳だ。
更にお腹が空いてきた俺は美羽の支度が終わると階段を下りて昨日の席へと座った。
テーブルには既に木製の四角いお皿にフランスパン、ラズベリー&クリームチーズ、胡桃パン、クロワッサンとパン屋の品揃えかと思わせる色々な種類のパンが並んでいた。
「凄い!どれも美味しそう。」
美羽が目を輝かせている。
「全種類食べようぜ。」
俺達の会話が聞こえたみたいで奥からおばさんが。
「どうぞどうぞ、沢山食べて帰ってね。」
嬉しそうな声でそう言った。
「おばさんパン焼きが趣味なんですか?」
「うん。実は老後はパン屋さんやりたいな…なんて思ってた。」
「今からでもやって下さい。毎日は来られないけどたまになら買いに来ますから。」
「ありがとうね。そうね考えとくわね…あはは。あ、後まだお料理出るからね。先にパンつまんでても大丈夫よ。焼きたてだから美味しいと思うわよ。」
「はい。では先にパン頂きます。」
カリッ。フワッ。
フランスパンを口にする俺はそんな食感を楽しんでいた。
「ラズベリー&クリームチーズ美味しい。この二つの組み合わせがこんなに合うなんて初めて知った。これ家で作ってみたいな。」
「一口味見させて。」
「うん。」
「うわ…美味!」
「拓も気に入ったみたいだね。後でパンのレシピも聞いてみちゃおうかな。拓に焼いてあげたくなってきた。」
美羽が俺の為に何かをしてくれるのは家族としてでは無くこれからは男の俺にしてくれるのだと都合良く思って良いのだとそんな美羽の言葉が嬉しくてニヤけそうになるのをこらえた。
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