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美羽の顔を見ただけでそうだと分かった。
「何か欲しい物があるの?」
黙ったまま首を横に振る。
「誰かに…借金してる…とか。」
今度は少し笑みをこぼしながら首を振る。
するとゆっくりと美羽は口を開いた。
「この家を出ようと思ってるんだ。」
「え…。」
「って言ってもまだお金が目標額迄たまっていないから直ぐにとはいかないんだけれどね。」
美羽が俺の前であまりにもそんな事をさらりと話すから頭と気持ちがついていかない。
「…。」
「あっ…びっくりしたよね?別に隠してた訳じゃ無いんだけどね。お父さんも揃っている時の方が良い気がしてその内きちんと話そうと思ってたの。」
「どうして家出るの?誰かとその…同棲でもする予定とか?」
「えぇ?しないよ。そんな相手もいないよ。」
「美羽そういう話前からしないから。本当にいないの?」
「うん。いないよ。」
「一人暮らしするって事だよね?」
「そう。」
「理由が男とか誰かじゃ無かったら家を出る意味が全く分からない。」
俺は少し声を荒げてしまった。
「ここで暮らしていれば生活費だって一人暮らしするより抑えられるし何で?」
すると美羽は笑いながら俺に。
「はは。拓どうしちゃったの?変だよ。」
どうして笑えるんだよ美羽。
「変なのは美羽の方。」
俺がそんなに可笑しいのか?
「私…変な事言った?」
だって美羽がさっきから意味分からない事ばっかり俺に言うからほんの少しも俺は理解が出来ないんだよ。
「幸せだって。俺と父さんが美羽の作った料理を美味しいって食べてくれるのが幸せだって言ってたよな。」
「言ったよ。本当にそう思うから。」
あぁ…これ以上は…。
「…ご馳走様。」
「拓…もう食べないの?」
「なんかかったるいわ…寝る。」
これ以上は美羽に踏み込めない。
再び行き場のない歯がゆさが襲う。
ガチャ、バサッ…。
部屋に戻ると電気も点けずにベッドに倒れ込む。
成長したつもりになっていた。
自分の本当の気持ちを上手くコントロール出来ていると思っていた。
けれど違ったみたいだ。
俺はずっとずっとひたすら我慢して来ただけで成長した訳でも何でも無かった。
もし成長出来ていたならば美羽の一人暮らしを心から応援していたはずだ。
それなのにあんな子供みたいに感情的になって噛み付いて。
高校の頃のあの俺と何も変わっていない。
沢山の事情に背を向けるちっぽけなふて腐れ野郎はまだここに居やがる。
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