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「美羽も拓も昼間は仕事や大学があったんだよな?夜から行くだなんて海真っ黒でつまらなかったろ?」
「けど…懐かしくてずっと美羽と思い出話してたよ。」
「そうなのか美羽。」
「うん…昔三人で行った時の事思い出して楽しかったよ。」
「そうだな行ったな夏休みに…で、海見て懐かしくなって泊まりたくなったという訳か。」
「そう…なの。」
父さんに笑顔で応じていく美羽の顔が少し不自然だった。
俺はそんな美羽から父さんの視線を外したくて話を振る。
「そろそろ食べない?ご飯もおかずも冷めちゃうよ。」
父さんがこちらを向いて安堵する俺。
「そうだな。食べるか。」
一先ず昨日の話は途切れて各々箸を動かしていく。
「おっ、今日はドラマの二時間スペシャルの日だったな。」
テレビから流れる予告に父さんは声を弾ませる。
「刑事ドラマ好きだよね父さん昔から。」
「昔も昔、子供の頃からな。」
「あはは。絶対にそのドラマがある日は残業しないで帰宅してご飯もお風呂も済ませてビール片手にスタンバイしてたよね。て言うか今も。」
「好きなんだよな刑事。犯人を追い詰めていく過程が面白い。あぁ、思い出した。三人で海に行った民宿でも見てたな…ん?まさかあの民宿に二人は泊まったのか?」
「そう。父さん覚えてる?昔俺達が泊まった民宿のおばあちゃん。」
「あ、あのおばあちゃんだよな?何時も入り口付近で椅子に座って子供達の相手してた。」
「実は会いに行ったんだ美羽と。だけど民宿には居なくて介護付き老人ホームに入っていてご健在だそう。」
「そうかそれは良かった。父さんもあの数日間でおばあちゃんとおしゃべり沢山して仲良くなったからまた来れたらな…なんて思ってたんだ。近々また行くか三人で久しぶりに。」
「うん…。」
「そうだね…。」
父さんの話は俺と美羽が泊まりで出掛けた事をやんわりと聞いてきただけでそれ程気にはしていない様に感じた。
テーブルに並んだおかずは減りお皿の底が見えて来た頃…俺は美羽と目で合図をして美羽の隣に座りテレビのボリュームを小さくした。
「どうした?」
「父さんに聞いて欲しい事があるんだ。」
「急に改まって何かあったのか?」
深く息を吸い込みゆっくりと吐く。
「俺と美羽。二人は惹かれ合っているんだ。」
そう言い放った俺は少しの後悔も無かった。
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