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「今…何て言ったんだ?」
「俺は美羽を一人の女性として好きになった。」
「私も。私も拓を一人の男性として好きになりました。」
笑うでも怒るでも無い顔の父さん。
そんな表情を浮かべている父さんを見た美羽が口を開く。
「お父さん。私はお父さんも拓も大切。それは私がこの家にやって来てからずっと思っている事。私は二人の家族に入れてもらえて心から救われて感謝してます。私達はその家族という形を崩したい訳じゃ無いの。だけど私と拓がそうなってしまったからには今迄通りなんて済む話では無いのよねお父さん。」
「父さん。俺と美羽のお互いを想い合う気持ちは変わらない。どうか認めて欲しい。」
すると話を全て聞いた父さんは指で目頭を押さえ始めた。
「父さん…。」
「お父さん。」
二人の心配する声が余計に父さんを困らせ苦しめている様で。
「…当に。本当なんだよな…。」
「本当だよ。」
俺が言うと顔を上げた父さんが涙を溢しながら笑っていた。
「おめでとう…拓に美羽。」
「喜んでくれてる…の?」
「当たり前だろ!」
思わず美羽と顔を合わせる。
「俺と美羽がそういう関係になるんだよ?」
「そうだよ。それが何だ?」
「いや…その…え?もしかして父さんからしたらそうなる事を望んでいた…何て事は流石に無いか、あはは。」
「そう望んでいたさ。昔から。可愛い俺の子供達が何時か一緒になってくれたりしたらこんな幸せな事は無いなってな。例えそうならなくても末永く拓と美羽が家族仲良くしていてくれさえすれば父さんは安心してあの世に行けるなぁなんて考えてた。」
「お父…さんっ…。」
隣で今度は美羽が泣き始めた。
俺はと言うと想像してなかった父さんの余りにも意外な発言に開いた口が塞がらなくなっていた。
「どうした美羽。そんなに泣いて。こんな嬉しい事なのにもっと笑いなさい。」
父さんはテーブルに置かれたティッシュケースから一枚引き出して美羽に渡す。
「お父さんも泣いてるじゃない。」
「そうだった。忘れてた。はは。」
美羽もティッシュを父さんに渡す。
「私も勿論拓もお父さんを一番に考え悩んでそんな毎日をずっと過ごしてた。父さんは家族を私達以上に大事に思い家族の為に沢山愛情を注いでくれたから。家族は家族として居るべきで私達が恋人になるなんてお父さんからしたら自分の思い描く家族では無くなってしまうって反対されると思ってた。だから父さんのその気持ちを聞けて今私達は心底嬉しい。お父さんに認めてもらえた私達は本当の恋人になれた気がする。ありがとうお父さん。」
「わぁ、父さんそういうの弱い、また泣くっ。」
「ちょっと、父さん…もぉ。あはは。」
「あっ、お父さん!ビール持ってくるよ!」
「そうだ!父さん呑もう。あとさっき言ってたあの世に行けるとかまだそんな話早いんだからな。」
「すまん。ついな。」
「そろそろドラマ始まるよ。」
俺はテレビのボリュームを上げた。
「これだけは何があっても欠かせない!」
父さんは美羽から缶ビールを受け取ると早速開けて勢い良く呑み始めた。
張り詰めたかの様に思えた空気は一変し何時の間にかリビングにはテレビの音と俺達三人の笑い声が響き渡っていたのだった。
俺達二人はテレビにかじり付く父さんにバレない様にキッチンでそっとキスをした。
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