それぞれの未来

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それぞれの未来

「はい…何度もお電話頂いてありがとう御座いました。では失礼致します。」 今日は太陽が眩しくて寒い時期なのが嘘みたいなそんな暖かい日だった。 私はその太陽の下で二人と離れて電話をしていた。 「美羽~!」 呼ばれて振り返る。 ズボンを捲り上げ裸足で海と戯れる拓が笑って手を振る。 その明るい日差しは反射し波をキラキラと金色の光でちりばめていく。 拓の笑顔もより一層と輝く。 私は拓に歩み寄ると靴を脱いで裸足になり冷たい海に足先をつける。 ブワッと海風が吹き抜けスカートがめくれそうになるのを両手で必死に堪えていると拓が。 「海来るのにスカートはどうかなって思ってたんだよな実は。」 「はぁ~。失敗した。」 「電話大丈夫だった?仕事のトラブル?」 「あぁ、違うの。お世話になってる不動産屋の方からであれから物件が出る度に何回か連絡もらってたんだけどもう必要無さそうだからお断りのお電話してたの。」 「そうか。そうだよな。」 ピシャッ! 「ヒャッ!冷たっ!」 「水は冷たいけど日が出てるから暑いくらいだよな、、っ!冷てっ!」 「あはは。お返し~。」 私と拓とお父さんは本当に久しぶりに例のあの民宿に旅行に来ていたのだった。 私達が波打ち際で騒いでいる後ろでお父さんが少し遠くのその民宿の入り口から私達を椅子に座って眺めている。 「その椅子に皆座りたがるんですよ。」 ここの民宿で働く年配の女性の方が俺に話し掛けてきた。 「昔まだあの子たちが小学生だった頃にこの椅子に毎日座って店番をしながら良く皆とおしゃべりしてくれたおばあちゃんを思い出してしまって…あ、そう言えばさっき到着した時にあの二人と仲良さそうに話してましたよね?」 「はい。前回の時にすっかり仲良くなって。実際はまだ二回目なんですけどね会うのは。だけど連絡は頻繁にとってるんで何だか昔から知ってるみたいな感じがします。」 「そうですか。」 「…ん?昔からって。そうだわ。昔から知っていたわ。話だけだけどおばあちゃんから聞いてたんだったわ。」 「昔?」 「そうなの。あの二人には前に言った事あるから知ってるんだけど。タレントさんみたいな可愛い女の子が泊まってるって。」 「いや言い過ぎですよ。はは。」 「で、その二人のお父さんがおばあちゃんにこんな話をしていたって。」 「話…。」 「美羽ちゃんは自分と拓とは血の繋がりの無い娘だと。でもお父さんは拓と美羽ちゃんが結婚でもしてくれたら良いのにと話していたともね。そうしてくれたら二人とずっと側に居られるのにって。」 「あ…思い出して来ました。そうだここに座るおばあちゃんにそんな話をしたな。」 「思い出しました?なら良かった。」 「あの頃は正直自分も美羽の父親が務まるか不安はあったのと、拓が美羽をずっと側で守っていってくれたらなとそんな心情を抱えながら旅行に来ていたのでついおばあちゃんにポロッと話してしまったんだな…。」 「そうですか…ま、でも二人がくっついて良かったですね。美羽ちゃんから連絡が来ました。」 「ありがとう御座います。」  「で、式は何時なんですか?」 「拓が社会人として仕事に慣れてきたらその頃にと考えているみたいですけど。」 「楽しみですね。お父さん号泣しちゃいそうね。」 「今から既に目頭が熱い位ですよ。」 「拓、これ以上水かけたら服が透けてきちゃうよ私。」 「はっ、ダメッ、ダメダメ絶対駄目!」 俺は周りに人が居ないかキョロキョロと見回す。 「駄目って拓がやったのに~。あはは!」 美羽が屈託のない笑顔で笑う。 目に映るその人は俺の一番大好きな人。 最初の恋は実らないなんて聞いた事があるけれどそれは嘘かもしれない。 長い長い初恋だった。   美羽を好きにならなかったら俺は…なんてそんな風に考えた事もあったりしたけどもうお終い。 美羽を信じて愛し抜く…これからもずっと。 幸せにする。 俺は美羽にそれしか出来ないから。 「美羽、あんまり外に居たら肌焼けない?」 「あっ、そうだ。焼けないんだった。」 「何か遊んでたらお腹空いてきた俺。」 「おばさんの美味しい夕飯楽しみだね。沢山食べたい。」 「…。」 「だ、大丈夫大丈夫!ドレスの事は頭にあるからさ、はは。」 「良いけどさ。俺が着る訳じゃないから。」 「男の人は気楽で羨ましいよ。」 「そうだな。主役はほぼ美羽だからな。きっと皆見とれるんだろうな…俺も早く見たいな。」 「お楽しみに!」 「父さんも泣くんだろうな。周りが引くぐらい。」 「拓も息子だし涙腺弱いから泣くね。」 「泣かないし。」 「泣くね。」 「泣きません。」 あははっと花が咲くように笑う美羽にその都度照れてしまう自分はまだ美羽に片想いをしているかの様で。 「拓。お父さんのとこ戻ろっか。」 「うん。」 美羽が俺の手を引く。 美羽を追い掛けてばかりだったあの頃とは違う。 こんなにも自然に美羽が俺を求めて来る。 俺は美羽のその手を握り返し微笑む。 それを見つめる美羽がまた笑顔をくれる。 照れた顔を見つからない様に父さんの元へ戻る。 「あら。仲良しね~いつ見ても。」 おばさんが羨ましそうに言う。 「あはは。あ、そうだ良かったら結婚式におばさんも来て下さい。」 「来て下さい!」 「嬉しい!うん。行きたいわ。」 「どうぞいらっしゃって下さい。二人もそう言ってますし。」 「もうおばさんも家族みたいなものですからね。俺達の。」 「ありがとう。家族って良い物よね。」 「はい!」 「とっても。」 この先の未来にどんな事が待ち構えていたとしても沢山の苦難を乗り越えた俺達はもう決して怖いものなんて何も無い。 美羽さえ側で笑っていてくれるのなら。 「拓。美羽ちゃんだ。仲良くしような。」 「…うん。」 可愛い女の子。 美羽ちゃんか。 守ってあげよう俺が───────。                   完
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