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その夜を境に拓は私に対してなんだか余所余所しくなってしまった。
もう一週間近くもそんな感じが続いていた。
私なりにあの夜の事を考えてみた。
私が家を出ると言いだした時のあの拓の変わり様は意外だった。
なんか小さな子供みたいでまるで私にすがるみたいに悲しい顔を浮かべてた。
お互い成人した大人のはずなのに拓ってば。
…もしかしたら拓の中に離婚したお母さんの存在がまだ色濃く残っているのかもしれないな。
当たり前の様にそこに居る人が突然家から居なくなってしまう悲しさを拓は知っている。
勿論私も…。
私はこの家を出るけれど拓の前から永遠に居なくなる訳でも消えてしまう事も無い。
でも拓はもしかしたらあの夜に出て行ったお母さんと私が重なって見えてしまったのかもしれない。
何にせよ誰だって家族が居なくなるのは悲しい。
私…自分の事ばかり考えていたのかな。
皆の事を考え思っての決断だと思ったからそうしようと思ったのだけれど自分の未熟さが仇になり結果的に拓の気持ちをおろそかにしてしまった。
側に居る大切な人こそもっと深く考えて思っていかなければならないんだ。
今度拓に謝ろう。
そしてまだ言えていない私の思いもきちんと伝えよう。
ガチャ、バタン…。
拓はあれから一人で朝出掛けてしまう。
先生のお手伝いがあるとかで。
私はそれが口実だって分かっているけれど。
拓が出掛けた玄関の音を確認し私も最後の歯磨きをして家を出た。
「…で、拓はどうする?ぎょっ、、」
高校からの付き合いの敏樹が引きつった顔で俺を見てくる。
「あぁ?何だよ敏樹その顔は。」
「やっ、一瞬あの金髪だった拓を思い出した。」
「金髪…また染めるかな。耳もまだ空いてるしな。」
さらりと髪をかき上げながら。
「拓は黒い方が俺は似合ってると思うな。」
「はは…冗談。あれやると髪痛みまくるんだよ。やんねぇよ。就活もあるしな。」
「お、おぉ。拓が金髪にすると近寄りがたいオーラがでるからな。」
敏樹が何故俺を見てそんな風に驚いたのか言われなくても分かっている。
美羽への想いを抱えたまま出口を探して彷徨う俺が今は前面に出てしまっている状態だという事を。
何時もみたいに余裕ぶって皆の前で笑ってなんかいられなくなっていた。
そりゃ敏樹もこんな尖った顔してる俺を見たら引くよな。
高校の頃の俺を知っていれば特に。
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