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「…で。顔も見たし気も済んだろ?」
グシャグシャッと乱暴に頭をかきながら言う。
「えぇ?まだ来たばっかりじゃない。」
亜由美は眉をひそめ俺の腕を掴む。
「何時だと思ってんだよ。今だったら終電ギリギリ間に合うし駅迄なら送ってやるから。」
「そうやって帰らせようとしないでよ…私また泣きそう。」
俺の腕から手を離し手の平で顔を覆う。
「亜由美ぃ…。。」
家の前で泣かれたら何時誰に見られるか分からない。
そんな事を思いあたふたしているとエレベーターの開く音がしてバッとそちらを振り向く。
一歩、亜由美に踏み込み見られない様に壁を作る。
少しずつこちらに向かって歩いてくるが男性で同じ階の二つ隣の人だった。
お互い軽く会釈をすると男性は家の中へと入っていった。
男性の姿を見届け俺は体を亜由美から離そうと顔を戻すと今度は俺を抱きしめてきた。
引き離そうとするがなかなか離れてくれない。
「亜由美、亜由美っ、電車無くなるからっ。」
「やだっ、拓とまだ居たい。」
「無理…無理だって、、」
その時だった。
「拓?」
一番見られたく無い人がそこに。
美羽の足が止まり少しずつ後ずさりして行くのが目に入ってきた。
罰が悪そうな顔をしている美羽に俺はとりあえず亜由美を体から引き剥がし必死で体裁を繕う。
「お、おかえり…今帰りなんて仕事忙しかったんだな。」
もっと何か、何かしっくりくる様な言葉は無いのか…。
「あっ、えっと…。そう、残業があって。そこ通らせてもらっても良いかな。」
「あ、あぁうん。ごめん。入って。」
コクリと頷き鍵を開けるとこちらをわざと見ないようにしているのか美羽は吸い込まれるかの様に中へ入って行く。
気が付くと背中にグッショリと冷や汗をかいていた。
久しぶりに話をしたせいで美羽なのに緊張してしまったが目の前の美羽の顔は少し痩せている様に見えた。
それと美羽に亜由美と居る所なんて見られたく無かったのに。
何で突然家になんか来るんだよ。
…俺か。
俺が冷たくしたりしてきちんと向き合わないから亜由美がこんな風に突然家に迄来るようになってしまったんだよな。
自業自得だ。
「駅まで送る。」
おれは一言そう言って先に歩き出した。
「ちょっと切開彼女が来たっていうのに待って、ねぇ、今の人誰なの?拓、姉弟居たっけ?ねえ、ちょっと拓っ。」
亜由美が走って追いつく。
「姉さん…だよ。」
エレベーターの移り行く数字を見つめながら覇気の無い声がこぼれた。
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