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「弟君と上手くいかなくなったのは何か原因はあるの?」
「…私が家を出ると言ったら何だか向こうの態度が素っ気ないと言うか。顔も合わせようとしなくて。一緒に暮らしているのに生活音だけはする…みたいな。」
「高井さんはどうして家を出ようと思うの?」
「けじめ…だと思ったんです。」
重みを含んだ声でそう言うと一瞬チラリと目だけでこちらを見てきた。
「身寄りの無い私を幼なじみだとはいえ引き取ってくれたお父さんとそれから拓に対しても。不自由なくここ迄育ててくれてどんな時も優しく側に居てくれました。寂しかった心もいつの間にか二人が塞いでくれたからまた笑う事も出来る様になったんです。十分過ぎる程の幸せを注いでくれました。だからもう私は甘えてばかりは居られないって。」
「頑張り屋の高井さんらしいや。」
「そんな…全然ですよ。でも拓はきっと離婚した自分のお母さんと私を重ねて見てたりするのかなって思ったんです。あたり前に側に居る人が自分の元から去るという事を受け入れ難いのかもしれないと。私ももう少し深く考えなければならなかったかなって。だけど永遠の別れでも無いしたまには食事もしたいので帰って来ようとは思っていますけどね。」
「…そうじゃ無い。いや、それもそうだけど核心の部分はそこじゃ無いと思うな俺は…なんてね。」
横で運転する神谷さんに振り向き恐る恐る聞いてみる。
「そこじゃ無い…とは拓が私をお母さんと重ねているという所ですか?それとも私が拓に対しての考え方の方ですか?」
「何となく分からない?」
「…すみません。分からないです。」
すると赤信号になると同時に神谷さんもこちらを振り向き少し嬉しそうに。
「そっか。それなら俺は安心したけどな。」
神谷さんの答えが全く分からなかった。
何で私と拓との事に神谷さんが安心したのか。
その後私は考え込み車内は暫くの間沈黙が続いたのだった。
───────────。
その沈黙は神谷さんの一言で一気に雰囲気が変わる。
「もうすぐ着くよ。」
「あ、はい。」
「お腹鳴ったの聞こえた?」
「いえ。」
「高井さんも鳴ったよね?」
「えぇ!?」
クスクス笑う神谷さん。
車を駐車場に止めシートベルトを外しながら神谷さんは私をからかう。
「お腹空いたね。早く行こう。」
「はい。」
二人は車から降りて店へと歩き出す。
少し出遅れた私は神谷さんの背中を早足で追いかける。
そしてふと思う。
神谷さんという人はきっと私以上に私の事を知っている…そんな様な気がしてならなかった。
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