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「今日は二軒しか行けなかったけどまた行こう。」
順調に車を走らせミントのシュガーレスガムを口にしながら神谷さんは私をまた甘い物巡りに誘ってくれた。
「是非。」私はそう答える。
素直に嬉しい…その気持ちは勿論本当。
でも神谷さんのプライベートに深くは触れていないので色々な事がまだ手探り状態だか…え?
ガムを食べようと口に運んだ手が止まる。
どうして今拓とあの彼女を思い出したのだろう。
胸に引っ掛かる違和感を感じる。
何だろう…車酔いかな。
私はもう片方の手を胸にそっと当てた。
さっきあんな沢山はしゃいで食べたりしたからかもしれないな。
そんな風に思いながらカリッと手にしたガムを噛んだ。
「高井さん?」
「は、はいっ。」
呼ばれてびっくりする。
「大丈夫?気分悪いんじゃない?窓開けるよ。」
「大丈夫です…すみません。」
神谷さんは私の様子がおかしい事に直ぐに気付いて運転席で操作し窓を開けてくれた。
そして信号待ちで車が止まると神谷さんは神妙な面持ちで口を開く。
「ごめん…もしかしてさっき家族の話させちゃったからかな。実は気になってて。この間会社で今度話そうとか俺が言ってしまったのを高井さんは忠実に守って話してくれたから。言わないで済むのであれば言いたく無かったかなと思ってたんだ。」
「あ…いえ。」
「それとさ、プライベートの話聞いた時もまさか家族の事だと思わなくて本当ごめん。軽率でした。」
私の方に体を向けて神谷さんは頭を下げた。
「本当にっ、あの、そんな謝らないで下さい神谷さん。違いますから。私はその今迄の生い立ちや家族の事は話したくて勝手に話したので気に病むのはやめて下さい。」
すると後ろの車がクラクションを鳴らし私はその音にビクッと反応する。
下を向いたままの神谷さんもハンドルを再び握り車を発車させた。
その横顔は初めて見る神谷さんのしゅんとした表情だった。
会社でも私の前でも何時も笑顔の神谷さんにこんな顔をさせてしまうなんて酷く自分に腹が立った。
拓との時もそうだ。
私が深く考えられないせいで拓を悲しませてしまった。
今もこうして大切な人を困らせてしまっている。
…私は結局、自分良がりな人間なんだ。
自分で考えた事が皆の為になるとか自分さえ楽になれれば良いみたいに思って、それを受け取った相手はどう思い考えるとか…そこまで掘り下げて考えなくてはいけない事だって沢山あるのに。
私の方こそ神谷さんに対して軽率だった。
現に神谷さんに拓の事を話したら鬱々としていた気持ちも少し楽になったのを感じたし。
こうして私を隣に乗せて私の為に家迄車を走らせてくれている事自体も申し訳なく思えてきてしまう。
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