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その後お互い御手洗いへ行ったり飲み物を買ったりして車に再び乗り込みサービスエリアを出発し家路へと向かった。
早めに現地を出発したので混雑する事も無く暗くなる前には私の家の前に到着出来た。
カチッとシートベルトを外し扉を開け私よりも先に外に出ると神谷さんは後ろに積んだ私の荷物を手にし渡してくれた。
「楽しかった。高井さんとも色々話せて。」
「こちらこそ楽しかったです。誘って頂いてありがとうございます。」
「また明日会社でね。じゃね。」
私は軽く会釈をして返した。
そして目尻に皺を寄せながらこちらに優しく微笑む神谷さんが車に乗り込もうとしたその時神谷さんを通り越して向こうから歩いて来る拓が目に入ってきた。
「拓…。」
拓も私に気が付いてお互い目が合う。
様子に気づいた神谷さんがふと後ろを振り向く。
拓は私達に顔を背ける様にして横を通り過ぎたその時、神谷さんは一言拓に声を掛けた。
「弟君?」
声を掛けられると怪訝な顔を浮かべながら神谷さんに顔を向けた。
「…。」
何も話し出そうとしない拓を見かねて私は二人の間に入り拓の代わりに話を繋ぐ。
「そ、そうなんです、弟の拓です。大学に通っています。」
「そうか大学生か。学部は?」
「…工学部…です。」
「へぇ。理系なんだ…それにしてもイケメンだね。モテるんじゃない?」
「…はぁ。」
神谷さんが気をつかって一生懸命話し掛けてくれているというのに無愛想で機嫌の悪そうな拓に私はあたふたしてしまう。
すると肩に掛けていた鞄が振動しているのを感じ中のスマホを確認すると同じ会社の前の席の田村さんからの着信だった。
私は二人から少し離れた場所で電話に出た。
「今日は一緒にドライブして来たんだ。」
美羽が離れると神谷さんはそう言って自信たっぷりな顔を俺に向けた。
胸くそ悪いその顔を殴ってしまおう…なんて思った。
すると目線を俺から外し美羽の方へと向ける。
その表情はまるで愛しい人でも見るかの様に。
さっき遠目で二人を見た時から既に胸がざわつき嫌な予感はしたんだ。
背中を向けているこの男は俺から美羽を奪って行く天敵だと直感した。
分かってはいた。
美羽が俺以外の男とそうなる日が来る事。
だけど何時か…何時かと遠い明日だと思うのはもう終わり。
こんな目の前で見せられて俺の中の熱い想いが震え上がっている。
美羽を…
俺は美羽を手放す訳にはいかないんだ。
絶対に。
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