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下の方で拳を握りしめる。
するとまた神谷さんは俺に。
「高井さんはさ仕事も一生懸命で頑張り屋さんなんだよね。今時の若い子には珍しく本当しっかりしてて考え方もなんか大人でさ。きっと家でも完璧にこなしてるんじゃない?お姉さんとして。」
握った拳に力が入った。
神谷さんの口からそんな言葉なんて聞きたくも無いのに。
この人は俺と美羽の関係性を知っていてあえてそう仕向けているのか?
俺の反応を見るために。
そんな疑惑が生まれていた。
神谷さんの表情は笑っているが目の奥に俺に対する対抗心が宿っている様に感じた。
「そうですね。良く機転をきかせて家に居ても動いてくれてます。」
「そうだと思った。職場内でも親切でとか評判良いし。今日も一緒に居て分かったけど俺に優しくて思いやりがあるよ君のお姉さんは。」
「美羽は何時でも皆に平等に接してくれますから。」
神谷さんにだけ特別じゃ無いんだよ美羽は。
さっきから何か鼻につくなこの人の会話。
やはり試しているな俺の事。
マジ腹立つ。
「俺はそんな美羽が最高に素敵な女性だと思っています。だからもし美羽が傷つく事があったのなら俺は構わず全力でそいつをぶん殴りに行く覚悟があります。」
神谷さんは俺の言い放った言葉に驚いた様子ではあるもののでも、また笑って俺の言葉に応える。目の奥の闘志みなぎる強さはそのままで。
「それは心強い!いや~そんな弟初めて会ったよ。君が側に居てくれたのならお姉さんも安心だね。」
何だ?馬鹿にしてんのかこいつ。
「だけど…。お姉さんは一人の人間でそれなりに世間の厳しさや色々な事を知って乗り越えても来ている大人だ。君がそういう思いで居てくれるのは嬉しい事だとは思うけどお姉さんはお姉さんの意志があるんだよ。」
「神谷さん。俺を諭してますよね…って言うか今日初めて会っただけなのに俺にもっと言いたい事でもある様な口ぶりですね。さっきから。」
一触即発の空気感。
「姉弟…なんだよ君達は。」
「…っつ。」
「高井さんだって姉として君を思っている。」
「そんなの貴方に言われたく無い。」
「いや。言っておきたいんだ。」
「は?」
「俺はお姉さんが好きだ。付き合いたいと思っている。」
さっきから聞いていれば俺と美羽の間にずけずけと入って来ようとして来る感じが頭にくるんだよマジで。
フルフルと指の先まで怒りを感じ握った拳の手の中はジットリと汗をかいていた。
いい加減にしろよ。
右手がピクリと動く。
そう思った時だった。
「ごめんなさい神谷さん、田村さんから仕事の件で電話があって話してました。」
電話を終えた美羽がこちらに戻って来た。
一瞬にして張り詰めていた空気が変わる。
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