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美羽が俺と神谷さんの顔を覗く。
「どうかしましたか?」
「いや。何にも…弟君と世間話を少しね。」
神谷さんは美羽を見ると俺には見せなかった笑顔でそう話した。
すると手の平を胸の辺りで軽くパンッと叩いた神谷さん。
「さて。そろそろ帰るかな。」
そう切り出した。
「今日は楽しかった。また行こうね高井さん。」と私に向かって言ってくれた。
「運転迄して頂いて本当にありがとうございました。気を付けて帰って下さい。」
「うん。家着いたら連絡入れるよ。じゃ。」
車に向かい扉に手を掛けグイッと開けたその時美羽では無く俺に目線を合わせた神谷さん。
「またな。弟君。」
俺は顔色を変えず鋭く神谷さんを見る。
「負けねぇから。」
小さく呟く。
神谷さんには聞こえていた様で。
「俺も。」
そう返してきた。
バタンと車に乗り込みエンジンをかけ帰って行った。
最後の最後迄勘に触るヤツだったな…ったく。
行き場の無いモヤモヤした気持ちを抱えながらマンションの中へと入って行くとカツカツと美羽の歩く音が背中越しに聞こえて来た。
「…負けないって?」
美羽が横からそう言って覗いてきた。
「…お互い応援する野球チームが優勝争いしてるからその話だよ…。」
「ふ~ん…。神谷さんバレー部だったみたいだけど野球も好きなんだ…。」
…。
二人が美羽の事で一悶着してたなんて聞いたらきっと美羽の事だから深く悩み過ぎて寝られなくなったりするんだろうな。
俺と神谷さんが美羽を想いこれから奪い合うなんて知ったら美羽はどんな顔するだろう。
俺が美羽を誰よりも愛しているなんて言ったら…美羽は…
…美羽。
そっちに行くなよ…
俺から遠ざかって行かないで…
お願いだから…
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