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episode 4
神谷さんと別れ家に帰るとお父さんがリビングでくつろいでいた。
前々から拓とお父さんと三人できちんと話をしたいと思っていたので皆が揃った今このタイミングで三人で話をする時間を少しもらう事にした。
お母さんの幼なじみというだけの縁で私を引き取りこの家に迎え入れてくれたお父さんの覚悟が社会に出て沢山の事を見聞きし、経験出来た今だからこそやっとそれがどれ程の意味を成すものなのかが分かった。
血の繋がらない一人の子供を育て上げるという大変さ。
私が中学一年の時、両親が居なくて拓の家で暮らしている事を友達にからかわれて少しいじめられた時もお父さんは何時でも味方で優しく見守ってくれたよね。
当時は拓も友達からなんやかんや言われちゃって私のせいで暴言を吐かれたりして本当に申し訳ない気持ちで一杯になった。
お父さんと同じで拓も自分がそんな目にあったのに私を責めるなんて一切してこなくていつも通りの拓で接してくれた。
私の前では何も変わらないお父さんと拓でそこに居てくれた。
二人には一生かかっても返せない程の恩を与えてもらった。
世界の隅で誰にも見つからない場所に居た独りぼっちの私を二人が救い上げてくれた。
お父さん。
それから拓。
二人は自分よりも大切で愛する私のたった一つの家族です。
居心地の良いこの場所にずっと居たいと望んでしまうけれど私はもう甘えてばかりはいられない。
お父さん。
私はこの家を出ます。
拓。
拓の気持ちを私が未熟な故におろそかにしてしまってごめんね。
けれど私の思いはこういう事だったんだ。
拓の事は今も変わらず大切だよ。
窓の外は日が沈みしんと静まり返るリビングで私は今この胸にある二人への溢れんばかりの感謝を口にしたと同時にこの家を出るという決意もしっかりと伝えた。
「美羽。気持ちは受け取ったよ。そうしたいと決めたのなら何も言わない。だけど何時でも帰って来て良いんだよ。だってここは美羽の家でもあるんだからね。」
お父さんは私の話をただ黙って最後迄聞いてくれていた。
そして私が家を出る事に対しても了承してくれた。
一方拓は…。
ふとお父さんから拓に目線を移すと何とも表情が読み取れない顔を浮かべている。
その顔は決して前の様な悲しい表情では無く何か別の事でも考えているようなそんな風に感じた。
拓に私の気持ちとこの間の謝罪を伝えたつもりだけれどそうすんなりといかないのかもしれないな。
だから私の事なんか呆れて頭の中は違う何かで一杯なんだよね。
私はそう思っていた。
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