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一通り話は終わって私は夕飯にカレーを作り出した。
今晩のカレーは何時もよりも辛めに味付けをした。
食後に皆で食べようと思っているお土産で買った生チョコがより美味しく食べられそうなそんな気がして。
切った野菜と豚肉を鍋に入れ最後にカレールウで煮込んでいるとお父さんが冷蔵庫をガラッと開けてビールを取り出した。
お父さんの顔を見ると口角が上がっていて嬉しそうな表情をしていた。
小さく鼻歌も聞こえて来た。
「美羽も呑む?」
「あ、うん。少しだけもらおうかな。明日仕事だから。」
「分かった。なんかお父さん嬉しくてさ。今日の話聞いて美羽が立派に成長してくれたなって。だからそのお祝いで一緒に呑もう。」
じんわりと心が温かくなった。
「うん!ありがとうお父さん。」
ご飯も炊き上がり今夜は何時もとは少し違う心持ちで三人揃って夕飯を取った。
食後に買って来た生チョコをテーブルに広げるとお父さんは真っ先に手を伸ばして口に運び顔迄もとろけさせて舌鼓を打っていた。
私も手を伸ばし口に運んだけれど拓はチョコは口にせずカレーを食べ終わると直ぐに部屋へ戻ってしまった。
三人で食べればあっという間にでも無くなってしまいそうな量のチョコも端っこの一列だけが残されたままで。
それを見つめながら私はそっと蓋をした。
その内時間が解決してくれる事を願って。
人の気持ちはそう簡単にはいかないものだから。
その夜。
お父さんは一人ご機嫌でビールを何缶も空けて私がお風呂から上がった頃にはソファで寝入ってしまっていた。
テレビの音は割と大きくそれでも起きないお父さんはきっと朝まで起きないと思い私は掛け布団を持って来てそおっと掛けた。
こんなに酔う程呑んだお父さんを見たのは久しぶりだった。
余程嬉しかったのだと私も嬉しくなった。
それと同時に私の決意は少なくともお父さんには受け入れて貰えたのだとしっくりとくるものを感じていたのだった。
今日は朝から目まぐるしい一日だった。
神谷さんと甘い物巡りへと出発し、その神谷さんから突然想いを告げられて帰って来たら来たでこの話し合いになって。
前々から家族での話をしたいと思っていた為先程まで神谷さんに告白された事は忘れてしまっていた。
けれど話が済んだ今、今度は神谷さんに集中しようと気持ちを切り替えながら洗面台へと向かう。
「あっ、ごめん…拓居たんだ。済んだらまた来るね。」
扉を開けると途端に拓の使っているシャンプーの香りがして私の後にお風呂に入ったらしくその流れで歯も磨いていた。
「もう終わるから。」
そう言うとうがいを始め頭を上へ下へと動かすとまだ濡れている拓の髪の雫が私の頬に当たった。
うがいを終え顔を上げた拓。
鏡越しに手で頬を拭っている私に気が付く。
「あっ…悪りぃ。」
自分の濡れた髪の雫が私に飛んだのが分かった拓は首に巻いていたタオルを私に差し出した。
私はタオルを受け取るとサッと拭いて拓に返す。
そして拓と入れ替わる様にして洗面台の前へ立ったその時──────
拭ったはずの雫が顔の上の方からポツリ、またポツリと頬を伝う。
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