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部屋に入るなり体中のありとあらゆる部分の力が抜けて床にペタリと座り込んでしまった。
まだ体中に火照る熱を残しながら拓に触れられた部分に触れてみる。
腹部に手を当てると寝巻きの上からでもあの時と同じ位熱くなるのが分かった。
耳は拓にしつこく舐められた後の湿り気が残り首筋に手を滑らせていくとじんわり鳥肌が立った。
ガチャ…。
拓の部屋の方で扉を開ける音がした。
例えば私の部屋の扉など簡単に開けられてしまう訳でいつ拓が入って来てもおかしくない。
私は拓の気配に敏感になり自分の吐く息さえも気を配る。
すぐそこに拓が居ると思うだけでまた鼓動は早くなり拓の柔らかな手が私の肌に触れられた数分前の記憶を思い出す。
拓に欲情した鏡に映った私を。
…え?
一瞬心に過った感情が私の意に反していて思わず息が止まる。
───嫌じゃ無かった。
素直に私の体は拓を受け入れようとしていた。
私は拓にまた触れて欲しいと思っている…の?
体が二つに分裂したかの様に私一人の人間の中でちぐはぐな思いが駆け巡っていた。
そんな自分が怖くて私は早々にベッドの中に潜り込み掛け布団を頭迄すっぽりと被る。
ふんわりとした感触に包まれると泣いていると認識する前にとっくに涙が流れていた。
泣き止もうと必死になっても止まる事のない涙で昨日干したばかりのまだお日様の匂いのする掛け布団に大きなシミが出来ていた。
それからはもうベッドから動きたくなくて泣いて喉もカラカラだったけれど目を閉じて朝が来るのを待った。
────翌朝。
ズキンと割れる様に痛い頭を手で押さえながらベッドから体をなんとか起こすと一番に水を取りにキッチンへ向かった。
リビングには昨日ソファで寝入ってしまったお父さんの姿は無くてそれを横目で確認しながら冷蔵庫にあるミネラルウォーターを手にした。
ひんやりと冷たいペットボトルをおでこに当てる。
ガチャッ。
はっとして振り向くとお父さんが起きて来てこちらを見ている。
「おはよう美羽。」
拓が起きて来たのだと動揺してしまった。
「おはっ…おはよう。」
「最近朝が早い拓よりも今日は早いな。」
「うん。目が覚めちゃって。着替えて朝ご飯作るね。」
「うん。ありがとう。」
私はミネラルウォーターをゴクゴクと飲むと一度着替えをしに部屋に戻った。
すると拓も起きたようでリビングからお父さんと話す拓の声が聞こえてきた。
あれから一夜明け頭も心も昨日よりはクリアにはなったけれど拓の声が耳に入ってくるだけで私の鼓動は騒がしい。
着替えが済んだらキッチンへ行って朝ご飯を作らないといけない。
そうなると拓と顔を合わせなくてはならなくなる。
…。
「行って来ます。」
そんな事を考えていると拓の声がして起きて間もない拓は出掛けてしまった。
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